矢山行人 十五歳 夏18

「ねぇ、行人くんはセックスしたことある?」


「なんで?」


「さっき、お姉ちゃんとセックスしたら好きになるって言ってたから」


「あぁ、したことないよ」


「したことないのに、したら好きになるの?」


「多分ね」


「なんで?」


「セックスってさ、肯定の証だと思うんだよ」


「行人くんはお姉ちゃんに肯定されたいの?」


「多分、陽子じゃなくても良いんだけど」


「じゃあ、私でも?」


 僕はなんと答えるべきか考え、結局は素直に伝えた。

「うん」


「誰かに肯定してもらって、行人くんはどうしたいの?」


 どうしたい?

 僕はどうしたいのだろう。誰かに肯定してもらえれば安心できる。

 今までの僕の生活は間違っていなかった、と。

 そう言ってもらえれば僕は……。


「分からない」

 嘘だった。

 けれど、素直な気持ちだった。


「ねぇ、私とセックスしてみる?」

 あっけからんと言われると、何でもないことのように思えた。


「良いね。でも、朝子ちゃん。病気は大丈夫なの?」


「わかんないけど、大丈夫」


「そっか。なら」

 と僕は座っている朝子の後ろにまわって、抱きしめた。柔らかな感触と共に、かすかな汗と女の子の香りがした。


「なに?」


「ん? 抱きしめてんだけど」


「セックスは?」


「ここじゃ、できないよ。僕、童貞だし」


「童貞、関係ある?」


「あるある、超ある」


「どこならできるの?」


「ベッド」


「今度、病室のベッドでする?」


「同室の子、いないの?」


「いないよ」


「なら、良いかもね」

 何もよくないけど、僕はそう言った。


「しようね」

 朝子は変わらぬ口調で言った。


「うん」


 それから僕らは手を繋いで、真っ暗闇の階段を下りた。

 朝子が前で僕が後ろだった。手を軽く引かれる度に僕は子供扱いされているような気分になったが、不快ではなかった。むしろずっとこうして進みたかった。


 病院の前に歩きつくまで、僕らはほとんど会話を交わさなかった。

 手を離した時、朝子が僕を見て言った。

「ねぇキスして」


「良いよ」


 朝子と僕は唇が触れるだけのキスをした。

 当たり前だけれど、朝子から煙草の味はしなかった。

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