矢山行人 十五歳 夏10
コンビニでライターを買い、ふらふら歩きながら煙草を吸った。
三度目の今回、煙草はやはり苦かったが、その後味を好ましく感じている自分もいた。
僕は変わり続けている。
小学生の頃のような、弱く何もかもに屈した僕は影をひそめている。けれど、当時の僕は僕の中にしこりのようにして残っている。
外灯が薄い光を落とす暗い道を歩きながら、僕は何の前触れもなく昨日、陽子とセックスをしておけば良かった、と思った。
どうして、そんなことが頭を過るのか分からなかった。
――エッチしたことある?
同時に秋穂の問いも頭に浮かんだ。
どうして、秋穂は僕にそんなことを尋ねたのだろう?
秋穂は誰かとそういう行為をしたことがあるのだろうか?
分からない。
ただ、秋穂が僕ではない誰かとセックスをする瞬間を想像するだけで僕は心臓を握りつぶされるほどに苦しくなった。
なのに、僕は今、陽子とセックスをしておけば良かった、と思っていた。
寝ている彼女の唇を奪って、服を脱がして、体中に手を這わせて、彼女の形を確かめて、そして……。
自然と足が止まった。
例えば、横で眠っているのが秋穂だったら僕は間違っても彼女の唇を奪おうと思わない。それは秋穂が僕にとって特別な女の子だからだ。
けれど、そうであるなら、同じように寝ている陽子の唇を奪わないのは、彼女もまた僕にとって特別な存在だからなのだろうか?
違う。
違うと思う。
なら、陽子の日常が如何に親から見離され、怖い夢を見ると僕なんかに抱きつくほどだったとしても、彼女の唇を奪っておくべきだったんじゃないか?
そうして服を脱がして、自分のものを無理矢理にでも彼女の中に押し込んでおくべきだったんじゃないのか?
僕は今、あまりにも極端なものの考え方をしている。
分かっている。
分かっているけれど、考えない訳にはいかなった。
秋穂を特別な女の子、世界で一番大切な女の子として扱うなら、それ以外の女の子にはぞんざいに扱わなければならない。
誰にでも良い顔をするってことは、全員を選んでいるように見えて、誰も選んでいないと同義だ。
――じゃあ、エッチしたいって思ったこと、ある?
また、秋穂の問いが浮かんだ。
もちろん、ある。
けれど、その相手は不思議なことに秋穂じゃなかった。秋穂じゃない誰かと僕はしたかった。
僕の歪みは、矛盾は結局のところ、そこに集約されていた。
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