矢山行人 十五歳 夏03

 言い訳だけれど、僕は夏休みの宿題を終わらせるつもりだった。

 その証拠に夏休みの間、過ごした親戚の家にも宿題は持って行っていた。


 ただ親戚の家でお世話になっている間に起きた出来事のおかげで、宿題をする時間がなくなってしまった。毎日、走り回ったあげく、気づけば帰る日の前日なんていう状態だった。

 更に僕は夏休みの宿題を丸ごと親戚の家に忘れて帰ってしまった。

 誰かに写してもらおうにも、その宿題がないのでは仕方がなかった。

 送り返してもらうのに時間が掛かり、夏休みが終わって三日が経った本日の朝、宿題はほとんど真っ白な状態で僕の手元に戻ってきた。

 絶望とは、こういうことを言うのかも知れない。


 陽子の提案で宿題は今日から取り掛かることになった。

 問題は場所だった。

 僕の家でどうかな、と誘って良いものか考えていると

「ぼくの家で、やるのはどうだい?」

 と陽子が言った。


「陽子が良いのなら、もちろん嬉しいけど、良いの?」


「何を言っているんだい? 良いから誘っているんだよ」

 それはそうだ。


「なんだい? やっぱりエッチなことがしたいのかい?」


「そーいう訳じゃないよ」


「じゃあ、良いじゃないか。健全に夏休みの宿題をしようじゃないか」


「そうだね」


「ちなみに夏休みの宿題は今、持っているのかい?」


「いや、家にある」


「なら宿題を取りに帰っている間に、ぼくは家に帰って少し準備をさせてもらおうかな」


「ん、ムダ毛の処理?」

 僕の軽口に陽子が不快になるのが分かった。


「良いんだよ、ぼくは別に行人くんの宿題を手伝わなくても」


「すみませんでした!」


「はぁ」

 と陽子はため息を漏らした。「で、行人くん。ぼくの家、知っていたかな?」


「知らないよ」


「ふむ。ここから近くなんだけど、少し分かりにくい所だからね。じゃあ、ローソンは分かるかい?」


「パチンコ屋の向かいの?」


「そうそう。そこに三十分後で、どうだい?」


「いいけど。普通に携帯の番号を教えてもらうじゃダメなの?」


「ぼくは優等生だからね。学校に携帯を持って行っていないんだよ」


 空き地とはいえ、学校の制服で煙草を吸っているくせに何を言っているんだろう。と思ったけれど余計なことは言わず、陽子とその場で別れた。

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