第3話

 すつかり寒くなつた。

 歳を取る毎に時の流れの早さが加速するといふ話を聞ひたことがある。そんな氣がしてくる。

 寒いので外へ出る氣になれない。差し迫つた用事がない限りは家に引き籠つてゐる。椅子に座つて、ただ時間が過ぎるのを待つ。

 洗濯室は建物が別であるので、一度外へ出なければならない。ゆゑに億劫になつて、洗濯物が部屋の中に溜まつてくる。仕方がないから洗濯をすることにした。


 籠に洗濯物を入れ、裏口から外へ出た。數日振りの外の空気はひんやりと冷たく、でも何か透き通つた感じがした。

 既に夜だつた。私はふと空を見上げた。オリオン座が光つてゐた。其れ迄私の中で鬱屈としてゐた何かが、急に解放され空へと昇つていつた。兩手を伸ばし、何かを叫んでゐるみたいな氣分だ。

「あはははは。あはははは」

笑ひが止まらなかつた。

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紫陽花 大川澂雄 @sumio-okawa

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