第18話 南の大地

 スバル55は、南国の木々にサンサンと太陽の光が降り注ぐ、南の大地を海に沿って走っていた。

「南だわ」

 夏菜が、スバル55の窓から吹き込んで来る南国の空気を全身に感じながら、嬉しそうに叫んだ。

「ついに来たわ」

 夏菜はさらに叫んだ。

 大地と海に漏れなく強烈な太陽の日差しが、サンサンと降り注いでいた。

「これよ、私が求めていたものは」

 夏菜は降り注ぐ太陽の光のその熱と熱気に感動していた。

「でも、島が無いよ」

 幸子が海を見渡しながら言った。海の向こうは海しかなかった。

「南に島が無いなんてどうかしてるわ」

 夏菜は口をとがらせ不満気に言った。

 スバル55は南の島を探しながら海岸沿いの道を走り続けた。

「気持ち良いね」

 幸子がスバル55の窓枠に両腕を乗せ、更にその上に自分の顔を乗せ、吹き込む南国の風をその顔いっぱいに受けてうっとりとして言った。その横でリトルベアが、幸子の肩越しにその小さな顔を同じように南国の風に吹かれながらのぞかせる。南の大地はのんびりとした平和な時間がゆったりと流れていた。

「ん?」

 その時だった。幸子が何かに気付いた。それは巨大なまあるい岩だった。それが突然、海と反対に面している崖の上からスバル55に向かって転がり落ちて来た。

「わあぁああ」

「わあああぁ」

「キャイ~ン」

 二人と一匹が同時に叫んだ。スバル55は、そのスバル55に向かって転がって来る巨大な真ん丸な岩を避けるため右に急旋回した。そこには海に沿って続く真っ白なガードレールがあった。

「わあぁああ」

「わあああぁ」

「キャイ~ン」

 二人と一匹は更に叫んだ。

 スバル55はそのままガードレールを突き破り、二十メートル下の海に真っ逆さまに落っこちていった。

「わあぁああ」

「わあああぁ」

「キャイ~ン」

 二人と一匹は更に更に叫んだ。巨大な岩は、落ちて行くスバル55のすぐ真横をかすめながら並行して落ちて行く。

 ドバァ~ン

 何とかすれすれ間一髪巨大な岩をかわしたスバル55だったが、海に落っこちると、そのままブクブクと沈み始めた。

「わあ、ドアが開かない」

 幸子が叫んだ。外に出ようと、ドアを開けようとするがビクともしなかった。

「水圧が強過ぎるんだわ」

 夏菜は冷静に言った。

「どうしよう」

 スバル55の運転席と助手席の横の小さな窓からは容赦なく海水が入り込んで来て、そこからはとても出られる状況ではない。どんどん沈んでいくスバル55の中、幸子が真っ青な顔で夏菜を見る。

「大丈夫よ」

 夏菜はニヤリとしてそう言うと、グローブボックスからコルトMK400を取り出し、スバル55のフロントガラス一杯に向けフルオートで連射した。フロントガラスは一瞬で真っ白くひび割れ、それと共に、海水が勢いよくスバル55の中に津波のごとく入って来た。

「わああ」

 幸子が叫ぶ間も無く、スバル55の室内は直ぐに完全に海水に満たされた。夏菜と幸子とリトルベアは、無重力の宇宙空間のように、ふわふわとその中に漂った。

「さあ」

 夏菜はふわふわと漂う幸子に手を伸ばした。幸子はふわふわと漂うリトルベアに手を伸ばした。幸子がリトルベアを掴むとその幸子の手を夏菜が掴み、二人と一匹はスバル55のフロントガラスのあったところから身をくねらせ脱出した。

「ぷはぁ~」

 二人と一匹は海面に顔を出した。

「助かった」

 幸子が、目をぱちくりさせて、事故など全く関係ないみたいに相変わらず真っ青に晴れ渡っている空を見上げた。

「生きてる」

 幸子は呆然として言った。

「とんだ災難ね」

 その横で夏菜が言った。そんな二人の間で、リトルベアが小さな体で必死に犬かきをして海面から顔を出していた。

 二人と一匹は、しばらく呆然と海に漂った後、岸へ向けて泳ぎだした。

「ふぅ~」

 やっとの思いで岸辺に上がった二人と一匹はスバル55の沈んだ辺りを振り返った。

「ああ、沈んでいっちゃう」

 幸子が悲痛な声を出した。

 スバル55は、ブクブクと小さな泡を海面にたくさん出しながら、ゆっくりと海低へと沈んでいった。

 しかし、二人にはどうすることもできなかった。

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