第17話 強盗

 ガソリンも満タンになり、意気揚々と風を切り、藪の生い茂る田舎道をスバル55は再び元気いっぱい走っていた。

「わたしたちお金持ちだね」

 幸子が助手席で、青年からもらった札束を嬉しそうに数えながら言った。

「金持ちは嫌いだわ」

「金持ちは退屈だもの」

 夏菜はそう言って、風船ガムを自分の顔ほども膨らませた。


「あっ」

 その時だった。突然、二人組の男が道路脇の藪から躍り出てきた。 

「手を挙げろ」

 二人の男は拳銃を構えていた。

 キキ―ッ

 スバル55は急ブレーキをかけ、大きく前につんのめった。その反動で後ろの席にのんびり座っていたリトルベアが、シートの下に思いっきり転がり落ちた。

 ドン

 しかし、あまりに突然だったのでブレーキが遅れ、スバル55は少し二人を轢いてしまった。二人の男はスバル55のフロントガラスの視界から消えた。

「轢いちゃった・・」

 幸子が身を乗り出して、二人の消えたスバル55のボンネットの向こうを見つめる。

「・・・」

 しばらく、夏菜と幸子は二人の消えたフロントガラスの前の光景を見つめていた。

 すると、スバル55のボンネットの左右に二つの手が乗っかった。かと思うと、二つの頭が見え、肩が見え、上半身が見えた。

「て、手を挙げろ」

 ヨロヨロと立ち上がった男二人は、再び拳銃を夏菜と幸子の方に向けながら叫んだ。

「よかったぁ。無事だったんだ」

 幸子が言った。

 しかし、二人はまだどこかふらふらしていた。

「あなたたちは誰?」 

 夏菜が聞いた。

「お、俺たちは強盗だ」

 拳銃を構えながら、小さい痩せた方の男が言った。

「強盗だ」 

 その後に、その隣りに立っていた背の高い太った方の男が続けて言った。

「ちょうどよかったわ」

 そう言って夏菜はスバル55から降りて、二人の強盗の前に立った。

「これ持ってって」

 夏菜は青年から受け取ったお金を差し出した。

「えっ?」

「困ってたのよ。助かるわ」

「・・・」

 札束を目の前に差し出された小さい方の強盗は、どうしていいのか呆然と札束と夏菜を交互に見つめていた。その時、スバル55の後ろの席ではリトルベアが再びシートに上がろうと、必死で小さな体を目いっぱい伸ばし、高いシートと格闘していた。

「早く持ってきなさいよ」

「いいんですか・・」

 二人の強盗は困惑気味に顔を見合わせ、目をぱちくりしていた。

「いや、でも、全部じゃなくてもいいですけど・・」

 小さい方の強盗が言った。

「そう、そのうちの一枚か二枚で・・」

 太った方の強盗が言った。

「何みみっちいこと言ってんのよ。あなたたち強盗でしょ。全部持ってきなさいよ」

「はい」

 夏菜の勢いに押され、二人の強盗はおずおずとお金を受け取った。

「あ、ありがとうございます」

 小さい方の強盗がおずおずと言った。

「あ、ありがとうございます」

 太った方の強盗が言った。

「いいのよ」

「強盗さんこれも上げる」

 幸子がコルトMK400を太った方の強盗に手渡した。

「こ、これ、本物じゃないですか」

 太った方の強盗が驚いて言った。

「と、とてももらえません」

 太った方の強盗は、手渡されたコルトMK400をすぐに押し返すように幸子に返した。

「よかったら町まで乗せてくけど?」

 夏菜が言った。

「い、いえ結構です」

 二人組の強盗は、そう言って逃げるようにして再び出て来た藪の中に消えていった。

 

 スバル55は再び走り出した。

「強盗さんたちの話聞きたかったね」

 幸子が残念そうに言った。

「全く気の小さい強盗ね」

 夏菜は呆れて言った。

 轢いてしまった強盗は大丈夫かとちょっと心配しながら、スバル55は田舎道を再び軽快に走って行った。

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