第12話 夜の浜辺
夜になり、海で遊び疲れた四人は、夏菜と幸子を真ん中に、誰もいない夜の砂浜に横一列に並んで、膝を抱え座っていた。
夜空には、これでもかと言わんばかりの無限に広がる星々がキラキラと輝いていた。海を見ると波が月明りに照らされ美しく揺らめいている。
浜辺の砂が四人の体を優しく包み込み、波の音が絶妙な周波数でゆったりと、ゆりかごに揺られているようにどこまでも心地良く鳴り響く。
四人は黙って浜辺に座り続けた。何もなくてもそれだけでその時間が幸せだった。
「あっ」
突然夜空が一条の光によって割れた。
「ああっ」
そして、強烈な衝撃音と共に夜空が真っ赤に光り輝いた。
「花火だ」
幸子が叫んだ。
「素敵なものってこれだったのね」
夏菜が言った。
「うん」
二人の青年は同時にうなづいた。
それから、次々と様々な色の花火が、様々な形で夜空に打ち上がり輝いていく。
それは花のようだったり、柳のように落ちていくもの、滝みたいに流れたり、噴水のように吹き上がったり、クルクル回ったり、星みたいにキラキラ輝いたり、大きかったり、小さかったり、一つだったり、たくさんだったり、夜空と海は、変幻自在に彩られた。
「この日のために、一年間、毎日一個一個花火を作ってきたんだ」
長髪の青年が言った。
「それを今日全部上げるんだ」
短髪の青年が嬉しそうに言った。
「なんだかもったいないわ」
幸子が言った。
「うん、でも、それがいいんだ」
短髪の青年が言った。
「そう、それが花火なんだよ」
長髪の青年が言った。
「そうね」
夏菜が言った。
心に直接ど~んど~んと、花火の衝撃音と共にその美しい輝きが響いてくる。四人は、ただその美しい迫力に見入った。
通りがかった人々が続々と、足を止め四人のいる浜辺に集まって来た。遠くの方でも人が集まっているのが分かった。
花火は、絶えることなく次々と上がって、夜空を照らし出す。
みんな砂浜に黙って座り、夜空を見つめた。
この時だけは喧嘩している人も、怒っている人も、誰かを憎んでいる人も、自分の人生を悲しんでいる人も、孤独に疲れている人も、世の中を呪っている人も、全てを忘れて、やさしさと思いやりに、心が温かく満たされていた。
誰も言葉を発するも者はいなかった。この出来事を言葉にしようとする者もいなかった。それは誰にも言葉にできない時間だった。
最後の花火が夜空に舞い上がった。それが夜空一杯に目一杯大きく光輝き、その残り火が悲しく残像として夜空に霞んでいくと、夜空は再び静かに横たわった。
一抹の寂しさと、感動を残して花火は終わった。でも、誰一人として立ち上がる者はなく、いつまでもいつまで夜空を見続けていた。
花火が終わっても、その鮮やかな余韻はいつまでも夜空に残り続けていた。やさしさと感動と共に。
その夜、四人は浜辺で満天の星を見ながら眠った。とても幸福な温かい気持ちに包まれて。
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