第5話 スイカ割り大会

 大スイカ割り大会が、広い道路の真ん中で始まった。

「わぁあ~」

「みぎ、みぎだよ~」

「今度はひだりだ」

「わあぁ~、やったぁ~」

 もちろん道路は通行止めだ。いつの間にかお巡りさんたちが交通整理をしてくれている。

「がんばれ~」

「みぎみぎ、あっ、行きすぎ、ひだり、ひだり」

 子供たちに交じって、幸子も目隠しをしてくるくると十回回ってよたよたと歩き出した。

「左、左」

「あっ、そこじゃない」

「おねえちゃん、みぎみぎ、そのまままっすぐ」

「ああ~、おしい」

 幸子は思いっきり棒を振り抜いたが、惜しくも固い地面を叩いてしまった。

「へへへっ、失敗しちゃった」

 幸子は目隠しを外すと、舌を出して笑った。

「惜しかったなぁ~」

 止められた車のドライバーたちも、いつしかみんな車から降りて、楽しそうにスイカ割り大会の見物人になっていた。

「おチビちゃんたち、がんばれ~」

「いいぞ、いいぞ」

「がんばれ、がんばれ~」

 大スイカ割り大会は子供たちや見物人の大人たちで大盛り上がりに盛り上がった。

 そして、ついにたくさんあったスイカは最後の一つになった。

「ここは私ね」

 夏菜がすっくと進み出た。

 目隠しをされ、やはりみんなと同じように十回回って夏菜は歩き出した。

「おねえちゃん、みぎみぎ」

「ひだりひだり」

「ああ、行き過ぎ」

「こんどは、みぎだぁ」

「エイッ」

「おおおっ」

 スイカは刀で切ったみたいに、きれいに真っ二つに割れた。

「おねえちゃん、すごい」

 幸子が叫んだ。

「まっ、こんなものね」

 夏菜が、目隠しを外し自分の割ったスイカを見下ろし言った。

 夏菜が、見事にスイカの脳天をから竹割りに割ると、拍手喝采で大スイカ割り大会は締めくくられた。

「おいしい~」

「おいしいわね」

「これはうまい」

 もちろん、割られたスイカはその場にいた全員にふるまわれた。もちろん、一生懸命働いてくれているお巡りさんたちにだって。

 

 食べきれないくらいあったスイカも、あっという間にみんなのお腹の中に消えていった。

「楽しかったわ」

 夏菜が言った。

「うん」

 幸子も満面の笑みだった。

「おもしろかったぁ」

「おもしろかったぁ」

 子供たちも口々にそう叫びながら、満足そうな満面の笑みを夏菜たちに向けた。

「楽しかった」

「楽しかったわ」

「楽しかった。ありがとう」

 動き出した車からも、夏菜たちに次々賛辞の手が降られた。

「バスも直りました」

 運転手のおじさんが顔も体も真っ黒にして、ほっとした表情でバスの下から出てきた。

「よかったわ」

 幸子が言った。

「ほんと良かった」

 夏菜も続けて言った。

「さっ、行きましょ」

「うん」

 夏菜と幸子は、再びスバル55に乗り込んだ。

「バイバ~イ」

 子供たちが、スバル55に元気いっぱい手を振った。

「バイバ~イ」

 幸子と夏菜も手を振った。

「バイバ~イ、バイバ~イ」

 子供たちは去り行くスバル55に、その姿が見えなくなるまで、一生懸命ずっと手を振り続けていた。子供に人気のスバル55は、どこか照れ臭く、嬉しそうに走って行った。

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