第4話 スイカ

 スバル55は、広大に広がるスイカ畑の真ん中を一直線に突っ切るように伸びる道を、まっすぐ突っ走っていた。

「うわぁ~、スイカがいっぱい」

 幸子が窓の外を眺め叫んだ。夏菜もスピードをゆるめ、畑を見る。丸々と太ったスイカが、広大に広がる畑のあちらこちらに葉っぱの陰から所狭しとその姿をのぞかせている。

「ねえちゃんたち、スイカ食べるか」

 そこへ、畑の中からひょっこりと顔を出したおじいさんが、夏菜たちに向かって叫んだ。それは大きな黄色い麦わら帽子のよく似合うおじいさんだった。

「もちろん」

 夏菜が叫び返すと、スバル55はスイカ畑の脇に止まった。

 おじいさんは腰に差していた包丁を手に取ると、足元の丸々と太ったスイカを一つ持ち上げ、その蔓をスパっと切ると、曲芸のような素早さと正確さでスイカをあっという間に、サクサクと食べやすい大きさに切り分けた。

「すご~い」

 幸子がその大きな目をさらに大きくして叫んだ。

「さあ、たくさん食べれ」

 道路脇に並んだきれいに三角形に形の揃ったスイカを、幸子と夏菜は手に取った。

「あま~い」

 思いっきりスイカにかぶりついた幸子が、口の端をスイカの汁でいっぱいにして言った。

「うまい」

 夏菜も思わずうねった。

「どうじゃ、参ったか?」

 おじいさんはうれしそうに言った。

「参ったわ」

 夏菜が心底観念して言った。

「参りました」

 幸子が笑顔で頭を下げる。

「はははっ、そうかそうか、たくさん食べれ」

「うん」

「うん」

 二人はそれから心行くまで、お腹いっぱいスイカを食べた。

「こんなにおいしいスイカをお腹いっぱい食べたの生まれて初めてだわ」

 夏菜が大きく膨れたお腹をさすりながら言った。

「私も」

 幸子も飛び出したお腹をさする。

「満足過ぎて、笑っちゃう」

 幸子は満面の笑顔で言った。

「そうかそうか、あっ、はっ、はっ、はっ、はっ」

 おじいさんもうれしそうだった。

 二人は幸せいっぱいで、スバル55に再び乗り込んだ。

「スイカ持っていきな」

 去り際、おじいさんが笑顔で言った。

「ありがとう」 

 スバル55は、うんしょうんしょと重そうに田舎道を一生懸命走って行く。

「たくさんもらっちゃったね」

 幸子が後部座席を振り返った。

「こんなにくれるとは思わなかったわ」

 夏菜が言った。

 小さなスバル55の後部座席と狭いトランクルームは、丸々と太ったバカでかいスイカでいっぱいになっていた。

「こんなに食べきれないわ」

「そうね」

 スバル55はいつしか再び大きな舗装道路に出た。

 しばらく走ると、道路脇にバスが止まっていた。

「どうしたの?」

 幸子が窓から顔を出す。

「バスがエンコしてしまったんだ」

 バスの運転手のおじさんは、心底困った顔でバスのいろんなところを何度も何度も覗き込んでいる。

「修理にとても時間がかかりそうだ」

 運転手のおじさんは、困った顔で言った。

「あっ、スバル55だ」

 その時、バスの窓という窓から幼い小さな子どもたちが一斉に顔を出した。この日、保育園では遠足の日だった。その帰り道、バスが壊れてしまったのだ。

「かっこいい」

「スバル55だぁ」

「すげぇ~」

「かわいい」

 子どもたちは窓から体を落とさんばかりに乗り出して、一生懸命スバル55を覗き込んでは指を差す。スバル55はどこか照れ臭そうに、白いボディを少し赤らめた。

「スイカ食べる?」

 夏菜がそんな子どもたちに言った。

「食べる~」

 子どもたちは一斉にそう叫ぶや否や、バスから、わらわらと喜び勇んで下りてきた。

「ただ食べても面白くないわ」

 夏菜が言った。

「どうするの」

 幸子が訊く。子どもたちも夏菜を見上げた。

「スイカ割りよ」

「やったぁ~」

 子どもたちと一緒に幸子も飛び上がった。

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