第3話 行く先
「ところで、どこへ行くの?おねえちゃん」
「ただ進むのよ」
「方角は?」
「南」
「南?」
「南よ。まっすぐ南。南のど真ん中へ行くわ」
「でも夏よ」
「夏だからよ」
「う~ん、複雑だわ」
幸子は、夏菜の考えが分からず、くらくらとその丸い頭を両手で抱えた。
「私に暑いって言わせてやるの。この夏に」
「ますます複雑だわ」
「そして、南の島の離れ小島のヤシの木にハンモックを吊るして、そこに思いっきり横になって、フルーツを齧るの」
「あ、それは分かる」
真っ白で大きな雲の下を、スバル55は南に向け、どこか陽気にステップを踏むように走って行く。
スバル55は、いつしか街を抜け、広い一本道に出た。
「お姉ちゃん免許あるの」
その時、ふと幸子が夏菜に訊いた。
「まさか。私は十五よ」
「大丈夫?」
「スバル55に免許なんていらないわ」
するとそこに白バイが一台、猛烈に真っ赤なサイレンを鳴らしながらものすごいスピードで、後ろからやって来た。
「わっ、警察だわ」
幸子が叫んだ。幸子は心配そうに、夏菜を見る。しかし、夏菜は涼しげな顔で、そのまま軽やかにスバル55を運転している。
白バイはスバル55の走っているすぐ横までやってくると、サイレンを消し、その横を並走しながら、運転席を覗き込んだ。そして、白バイ隊員は、スバル55の運転席の小さな窓をコンコンと軽く叩いた。夏菜はスバル55の窓を、手動レバーをクルクル回し全開にした。
「こんにちは」
白バイ隊員は、バカでかいサングラスの下に真っ白い歯を浮かべた。
「こんにちは」
夏菜も笑顔で答える。
「お嬢さん」
「はい、なんでしょう」
白バイ隊員は、夏菜のその端正な顔を見つめた。
「素晴らしい車だね」
「ありがとう」
「僕は子どもの頃からスバル55が大好きなんだ」
「私もよ」
「それを言いたかったんだ」
それだけ言って、白バイ隊員は二人に笑顔で手を振ると、そのまま走り去って行った。
「ほらね」
「ほんとだ」
スバル55はどこかご機嫌で走って行く。
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