第2話 読者サービス


 俺はナナミをベッドに押し倒す。


 初めてだから、どうすればいいのかわからなかった。



「やさしくしてぇ……」



 子猫が鳴くような声でナナミは訴える。


 ナナミの胸は呼吸をするたび揺れに揺れる。


 そのくせ、すぐに形状が元に戻って、はりのあるおっぱいになる。


 そんな扇情的な胸を見せつけられては、もう、俺のリビドーは有頂天なのだ。



「はじめてなのぉ……」



 そんなの、俺だって初めてだ。


 でも、こういう時は男が女の子をリードしてあげないといけないと雑誌で書いてあったので、いかにも玄人ですという落ち着いた態度で、じっとナナミを見つける。



「おっぱいばかりみないでよぉ……」



 どうも俺はナナミの芸術的なおっぱいばかりを見つめてしまっていたようだ。



「大丈夫。痛くしないから」



 俺の胸は不安でいっぱいだったけれど、これから訪れる楽園への期待の方がはるかに胸を躍らせた。






「ゴラァ!」



 俺、こと即死太郎すなわちしにたろうは思いっきり頭をどつかれる。


 当然、目から鱗が--でなく、火花が飛び出す。




「アップルティ」



 ナナミちゃんのおっぱいはリンゴよりもはるかに大きかったのだが、残念である。



「どこ見てるのぉ……」



 さっきとはうって変わって、塩らしい態度で奈々未は言う。



「おっぱいに決まってるだろ?」



 すると、さらに打撃が決まる。



 頭から脳髄がはじけ飛ぶとともに、俺は一体何で殴られたのかを悟った。



「境界線上のホライゾン……だと……」



 きっと集めている人は広辞苑よりも分厚くなり始めていることに気が付いているだろう電撃文庫の看板作品が奈々未の手の内にあった。



 別名、アリアダストの最終兵器。



「大罪武装よりも強いなんて、な……」



 そんな境界線上のホライゾンを書いてる川上稔が最強でした、ということか。



「もう、余計な会話とか説明文を続けちゃって訳が分からなくてってるけど、死太郎くん、一体なにをしてるの?」


「なにって、ただ官能小説を読んでるだけだが?」





 当然、フランス書院美少女文庫一筋だ。






「不潔!」



 今度は本気で首の骨を折られかねないので、俺は境界線上のホライゾンを交わす。


 でも、ハヤテのごとく繰り出された攻撃は目にも止まらぬ速さで俺の首をへし折った。



 俺は当然死んだ。



「で?胸が病気並みに薄くて100人もいる幼馴染みの一人の奈々未さんがなんのようで?」



 設定に不信感ありまくりだろうが、作者はそんなことをいちいち考えていない。


 コンティニューとか、去年の日曜朝の神みたいな設定だな。



「俺は神だ!」



 さすがにもう二度と殺されたくないので奈々未に土下座して許してもらう。



「あのね、死太郎くん。そんな青春をイケない方向にこじらせたような本を読んでるから友達ができないんだよ?」


「うるさい。俺には友達百人いるんだよ」




 百人で食べたいな。

 なにを?

 女の子の下着とか?




「またえっちなこと考えてたでしょ!殴るよ?」


「目玉をくりぬいてから言わないでくれます!?」



 俺に友達ができないのはどう考えてもお前らが悪いと俺は思うけど。



「注意はしたからね」



 100人いる学級委員長の一人でもある奈々未がそう言った。



「せめて、自慰なら……」


「メテオ!」



 それ、隕石落とす魔法だぜ!?


 そんなの、人に使っていいわけないだろ?



 俺は華麗なるミルキーウェイのスターダストになった。

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