第11話 @mercuyneet-③-
周囲は一面の菜の花畑。ジョニーの周囲を黄色く彩る。まっすぐな路線に沿って、列車は動く。
「……」
そんな列車の中で、ジョニーは警戒を緩めない。窓の景色は変わらない。
「……妙だな」
何かおかしい。周囲を見渡すも、気を配るも、何もない。驚くほどに。
周囲に響くのは列車が線路を動く音のみ。
「さて、彼はいつ気が付くかね。大いなる時間稼ぎに」
明晰夢コヤンは紅茶をすする。そのそばには同じように紅茶をすする瑠奈。今現在、ジョニーの周りには瑠奈の力によって再構築された、ループする世界。一面のなのはなは距離感を失わせるため、おあつらえ向きの列車は移動したときの違和感を失わせるため。
「それで、どうやって彼に勝つの?コヤン」
瑠奈が口を開く。彼女は動じず、焦らず、静かに紅茶を口に運び続ける。事実、今現在彼女がコヤンに指示したのは、出口のない世界のみ。老衰は狙えない。ハザマの世界では異能以外の効力では肉体は年を取らないのだ。
「彼が気づくまでに準備はすべて終わらせるさ。そして、瑠奈。少し、許してほしいことがある」
「なに?許してほしいことって?」
「……ただの何者でもない、夢である私が、少し我を持ってしまった。少し、私の我を振るうことを許してほしい」
コヤンの手は強く握られていた。まるで、先ほどの戦いの感触を確かめるように。それを見て、瑠奈は優しく微笑んだ。
AAAGインバーターを手に、ジョニーは列車から飛び降りた。なのはなと列車の罠は確かに功を奏したようで、列車に乗ること体感時間で1日間。しかしそれはジョニーにとって体をいやす時間だったことに他ならない。自身の異能を使い、身体の時計を早め、全身の傷を癒し、もはや戦闘を行う前よりも体の調子は整っていた。AAAGインバーターの表示を見て、なのはなの世界を、偽りの夢の中を駆ける。駆ける。駆ける。自身の異能を使い、ループし続ける列車よりも早く!そうして偽りの夢を振り切って、いつものハザマの世界へ……そして、AAAGインバーターを本格作動。ジョニーの姿を、緑色の光が包む。彼の影は光の速度を超え、ハザマの世界の壁すら超え……
「どこだぁ!明晰夢コヤン!決着をつけ直しに来たぞ!」
仇敵の本拠地へ。
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