第9話 @humurabidabutsu-②-

明晰夢コヤン。全の夢の集積地。自然発生した者。目指すべき理想を持ち、それでも自我を持たぬもの。

チャールズ・H・ジョニー。個の理想の収束地。人として生まれたもの。確固たる目的を持たず、それでも自我(ハードボイルド)に溢れた者。

その二人が交わしたのは、異能もなく、脈絡もなく。思い出を無視し、ハードボイルドでもない。ただの、全力の、右ストレートパンチだった。

「「ぐふっ!」」

そして双方の顔面が歪む!

その反動で吹き飛び、元の位置まで戻った。「コヤン、なんでてめー、異能を使わねぇんだ?ここはてめーのホームグラウンド。ハザマの中。お前が力を発揮すれば、俺なんかひとたまりもないだろうが。」「無論、君がそう望んだからだ。私は人の望みの集合体だからね。君が願うなら叶えねばなるまい。もちろん、私の「目的」に反しない限りだけどね。」コヤンは英国紳士めいた顔に、アンドロイドのように不自然な笑みを浮かべた。

「こちらからも聞いておきたいことがあるが、いいかな?」「なんだ?」「何故、「変身」をしない?そうしたところで君が勝てるわけではないが、友の記憶とともに戦ったほうが、君的には良いのではないか?」「わかってねぇなぁ、やっぱお前。」「は?」瞬間、コヤンの顔面にもう一度右ストレートが突き刺さる!

「当然!お前のことは「俺がぶっ倒す」からに決まってんだろうが!」誰の手をも借りない右ストレート。技術もなく、友情もなく、なによりハードボイルドでない。だからこそ、これはジョニーの一撃だ。ハードボイルドなジョニーではなく、ただのジョニーの。

「ああ。もう一つ聞いておきたいことがあった。」コヤンはそう前置きする。「ならなぜ君は変身のための双方合意を「うるせぇ気合注入だよ!」」右ストレート!

「ハードボイルドじゃねえかもしれねェけどな!知ってるか!不意打ちってのは強いんだぞ集合意識(びょうどうろんじゃ)!」「ああ!そうか!」コヤンはそれから言葉を発しようとしなかった。彼の顔には、先ほどのアンドロイドめいたものとは違う、真の微笑みが浮かんでいた。

そして、泥沼の殴り合いが始まった。異能はなく、超常はなく、ただの男と男の殴り合いが。

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