第2話 @humurabidabutsu-①-

……いや、待て。おかしい。明らかにおかしいだろう。何がおかしいか。いくつもあるが、まず第一に育児放棄されたことについてだ。「俺」はハードボイルドだ。故に、親など不要であり、育児放棄されたこと「程度」を不服に思うほどの心の狭さではなかったはずだ。そんなハードボイルドでないことを考えてしまった数分前の俺をぶんなぐってやりたい気分……いや、過去のことを気にするのはそれこそハードボイルドではないな。ドゴン!俺の全力のハードボイルド・パンチが俺の右頬に炸裂した。右の頬をぶたれたら左の頬を差し出せ、という格言を残したのは、茨の冠を被り、身の丈ほどもあるゴルゴダの十字架を振り回し100万の悪魔を殲滅した伝説のロックミュージシャン「ジーザス」の格言であることは周知の事実だ。ロックの道はハードボイルドに通ずる。故に、俺は左の頬を全力でぶんなぐって……

その時、世界が開けた。

「なっ、なにぃ!?この世界に、『対応』したのか!?」「ああ。やっと目が覚めたぜ。これが、お前の『スタンド』か。ハードボイルドかハードボイルドでないかと言ったら……まあまあハードボイルドだったぜ。」そこは、不条理そのものと言える空間。朝だったものが場のノリで夜になり、豚が降る。俺がお前でお前がジェンガで。そう。ここは聖鼻○領域。出典は某作品だ。これが、彼、はむらやんの所有する、「チカラ」だったのだ!俺と分離し、本性を現したはむらやんは醜く叫ぶ。「だっ、だが、お前はまだ犬のフンに過ぎない!手足もないのにどうやって俺に勝とうって……生えてるゥゥゥ!!??」手足の生え、顔があり、サングラスをつけた、俺。俺は、葉巻を下ろし、息を吐いた。ダンディであることもまた、ハードボイルドであることへの第一歩だ。「くっ……くっせ……イイ匂ォい〜〜」「言い忘れていたことがある。俺は犬のフンではなかったようだ。」葉巻の火を突っ伏した力士の背中に擦り付けて消し、勿体付けるように言う。「ジャコウネコのフンから取れるコピ・ルアクは最高級のコーヒーとして有名だ。ハードボイルドたるもの、ブラックコーヒーは嗜みだ。」「クソっ、このチカラは!不条理こそが!最強なのに!なぜ勝てない!」「理由など簡単だろう。」そう。あらゆる答えはひとつに収束する。「俺のほうが、お前よりハードボイルドだった、それだけだ。」「クッ、クソォォォォォォ!」「なんだ。俺の名前を呼びたかったのか?そうだな。」爆発四散するはむらやんの前で、俺はこう言った。「俺の名は、チャールズ・ハードボイルド・ジョニー。ハードボイルドなジョニーだ。」

消えてゆく聖○毛領域の中、葉巻をくゆらせるサングラスをかけたウンコは、サングラスをかけたダンディズム溢れるハードボイルドでロックないつもの俺に戻っていく。

ところで、ひとつだけ謎が残されている。「お前たちは何者だ?」「ふっ、やはりバレてしまいましたか。」空中に浮かぶ瑠奈と名乗るハードボイルドでない少女と、明晰夢コヤンを名乗るダンディだがハードボイルドでない英国紳士の存在。奥さんはさておきこの二人は、あの男、はむらやんの術の影響下になかった。不条理の中にありながら不条理でなく居られる。それは、はむらやんの術の中に、はむらやんに観測されずに潜り込んだことを意味していた。巻き込まれた哀れな暴力団員谷岡とは違う、一対一の男の戦いに潜り込んだ間違いない強敵(ハードボイルド)。彼らの正体はいかに……!


TO BE CONTINUED!

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