第一章 五

しかし、峯田は相変わらずお構いなしに話し続けた。

「僕のおまじないの言葉をひとつ君にプレゼントしよう。木には必ず実が生っているとは限らない。運よく実が生っている木に巡りあったとしても、実はさほど重要じゃない。それは見せかけさ。大事なものはもっと深いところにあるものだからね。」

そう話し終えた時、ちょうど示し合わせたかのようなタイミングでエレベーターが降りてきて扉が開いた。

「さぁ、乗ろう」

そういって峯田は重力を感じさせない軽いステップで四角い空間へと乗り込んだ。その後ろ姿を眺めていると、どこかで見たことのある鳥のようだった。彼の存在、言動、雰囲気、そのどれもが懐かしく、そして新しかった。

僕は魅かれていく自分の感情の誕生を意識した。

いつもの見慣れた風景なのに、僕たちに取り巻かれようとする空間だけはまったく別世界のように思われた。

僕も続いてエレベーターに乗り込み、七階のボタンを押した。

峯田はボタンを押さなかったので、彼が同じ階に引っ越してきたのだと思い、その偶然に少し驚いたが、彼はそのまま上階へと昇って行ってしまった。

それは今まで過ごしたどの時間よりも永く、しかし一瞬にも感じられた出来事だった。

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