第一章 四

それは唐突な質問だった。

「どっちって?」

「『男か女か』ってこと。」

峯田の外見からそれを判別するのはとても困難なことだった。

彼は本当にどちらでもあり、どちらでもないような、同じなのに同じでないような存在だったのだ。

「…男」

僕は少し考えて、そう言った。

「どうしてそう思うの?」

「君がさっき自分のことを『僕』って言ったからだよ。」

「なるほど」

峯田は特に怒るでも笑うでもない様子だった。

「もしかして、違った?」

「さぁ、どうだろう。果たして、僕が男か女かっていうことは我々にとって重要だろうか。」

僕は黙ったまま、中々こないエレベーターが早く降りてくることを願っていた。峯田のことが気になるのに、僕の中の何かが、これ以上関わってはいけないと警笛を鳴らしているのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る