第一章 二


けれど、凪いだ海は永遠には存在しない。

あらゆるものの目覚めと共に、音と光と共に、目に見えない内側の世界へと隠されてしまう。

僕は深く深呼吸をし、太陽が地上のあらゆるものの影を落とす前に、そこから立ち去った。


アパートに着き、降りてくるエレベーターを待っていると、ふいに見知らぬ人物に声をかけられた。

「あの」

背後から高く透き通った声がした。

振り返ると、栗毛で青白い肌をした、整った容貌の人間が立っていた。

彼、いや…、彼女だろうか。

見た目も声も中性的だったので判別がつかなかった。

彼、あるいは彼女は、こうだと規定することが難しい、あらゆるものの中間地点に立っているような神秘的な雰囲気をまとった人物だった。

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