第24話 ここが空いてると気になってくるから適当に何か書いていこうと思うわけね?そうすると何文字まで?とか調べるの面倒になって、誤字脱字も放置すると後で結局見直さないまま大変なことになるんだよ。

 地面と水平の角度まで跳躍し、足先が大樹の喉の下、胸の位置に両足とも綺麗に揃って着地、大樹の身体が吹き飛んで、亮もろとも芝生に転がる。


 見事なドロップキックから女性は姿勢を起こして中腰になると、レスリングのタックルよろしく、起き上がった大樹の両足を掴んで、背中から地面にもう一度押し倒し、芝生に腰を下ろす。大樹の腰を掴んで自分の方に引き寄せたところで、自然、大樹の肩は地面に接触して腰が浮き…脚を開いた大樹は股の間からその格好を強要させた女性を見上げることになる。


 簡単に言うと首倒立を失敗して頭側に転がり、脚を開いた上体で女性が大樹の腰を持ち上げているという状態だった。


「恥ずかしいね」


「うん」

「これは…」


 亜理紗に寧々、真由がその光景を目の当たりにして、強気そうな顔をした女性がにやりと笑う。


「汚辱に塗れるといい」

「やめてください」


 大樹が抗議するのも無理はない。相当恥ずかしい、筈で寧ろ暴れない大樹は達観している方だろう。


(何プレイっすか。公衆の面前で)


 亮は一歩後ろに下がって、自分も被害に遭わないようにする。


 怜奈の姿はホットパンツにタンクトップ。法律で隠す必要があるところ以外は全部出しているような、布の面積がめっちゃ少ない服を着たこの女性、風見怜奈かざみれなは国内最高レベルの能力者で複合能力者になる。肩まで伸びる髪の毛が大樹を揺するたびにふわふわと揺れていた。


 ウィザード級の能力者でありながら、彼女自身は魔女の弟子アプレンティスを名乗っている。ちなみに性格はこの通り、お嬢様で女王様で大樹たちをおもちゃのように扱っている。


 亜理紗がその容姿と素行から推測する。噂に聞く地球連邦政府、プラネットアース唯一の魔法使い。神話級行使者の風見怜奈は余りに有名だった。


「寧々、あの方は風見さんでは?」

「そうみたいね」

「くっ」


 亜理紗に寧々が同意して、真由が胸元を手で押さえる。真由の反応は大体、同じだ。巨乳が敵。


「風見さん!やめて!まじやめて!」

「うりゃうりゃー、あっはは!たのしいー!」


 怜奈が身体を揺すると、大きな柔らかいものがぶるんぶるんと振るえ、大樹のケツからつま先までも揺れる。亮は「不愍、いと不愍」と大樹に動揺するが助けない。助けようとすると、うれしはずかし羞恥プレイが待っているからだ。


 しばらく、子猫をいじくり倒す童女のように大樹を楽しんでから、怜奈が立ち上がる。

 ぼろぼろになった大樹が疲れきって肩で息をしていると、怜奈は腰に手を当てて寧々たちを見下ろす。


「やぁ、黒兎ちゃんたち」


 ばいん、と効果音を付けたくなるそれが震えて、真由がショックを受けて顔を引き攣らせ、口元に手を当てて一歩後ろに下がった。


「この人、未装着よ!」

「チョッキは大事よねぇ」

「…なんという、破廉恥!」


 真由の言う未装着は下着のことで、主に西洋風乳バンドのことを差す。亜理紗のチョッキはちょっと違う意味で男性用装備品だろうが…まぁ今回の場合はベスト的意味なら正解かもしれない。寧々は、石があったら投げ込みたい気分になる。これは罪で、石投げの罰を…。


 怜奈は三人の少女がドン引きしてる中、成年男子を睨んだ。


「なかやまぁん」

「はいっ!」


 更に、色気というよりエロ気のある声で怜奈が亮を呼ぶ。


「本日、ヒトサンマルマルより貴方たちの管理総督を命じられたの。なんでも人事が複雑になっているとか、どういうこと?アナタがいながらこれはなーに?」


 ずいっと前に出て、怜奈は指先で亮の胸を突き、亮がそっぽを向く。明らかに目のやり場と立場が無いのが見て取れる。


(亮にも苦手な女性がいる…ん?)


 大樹は亮が直視するのを拒絶しながら、その視線は怜奈の開いた胸元に向かっていることに気付く。ひらひらとはためくセーラーリボンが魅惑的だなぁ、などと思っているのだろう。


 人事権の整理をすると…

 風見怜奈が一番偉い。亮が基本的に次、めぐりが同等か非常時には一般人レギュラーなのでそれ以上になることがある、通常運営は亮がめぐりより指揮権は上。次に大樹、以下黒兎B・Rの三人が動く。


 大樹はポケットからタブレットを取り出して、寧々たちに分かりやすい写真式指揮系統図を送信する。こういうことをやっておかないと、寧々たちはすぐに「わかんない」と語尾にハートマークを飛ばして放り出す。

 三人がタブレット端末を確認してから、寧々が画面を指でなぞる。

 共有のデータシートに大樹の写真が寧々の下になる。


「こらこら」


 寧々がてへっと笑う。あざとい。犯人は寧々。寧々の支配欲とか独占欲は、こういう茶目っ気のある悪戯でも現れていた。


「深山ぁん。あんたもまだ、ぷらぷらしてんの?男ならビビーンと決めちゃえよ」


 大樹が次は自分か、と引き攣った笑みで怜奈が身体ごと大樹の眼前に迫るのを受け止める。身体と身体が密着している。

 その激しめのスキンシップは未成年少女たちに衝撃が走った。


(え、あれ、子供だから許されるんじゃないの?)


 寧々の手の中から、アップルだのパイナップルだのレモンだの可愛らしい名称の手榴弾がぼろぼろと零れる。浮気と判断して、攻撃を開始したのを大樹が察知した。


(その服のどこに隠して?)


 大樹が吃驚すると、左手の親指と薬指を擦り合わせるようにして、ぱちんとフィンガースナップを繰り出す。乾いた音と同時に計七個の手榴弾が消えて、数秒後に地中で、くぐもった風船を爆発させるような音が聞こえて、地面がそこかしこで盛り上がった。

 大樹の瞬間移動系統系能力テレポートが発動して、爆弾を地面に隠したのだ。

 迅速丁寧な配達人急転直下のエクスプレスデリバリーは特定の物質を特定の場所へ送れる瞬間移動能力で時間指定で引き取り、受け渡しが出来る能力でもある。


 大学構内での危険物取り扱いに大樹が寧々を叱ろうとしたが怜奈が阻止する。


「坂上っ!」

「だーめ、こっちの話が先よ?怜奈の言うこと聞けない?」


 怜奈が大樹の顔を手で掴んで自分から逃がさないようにする。危険を回避した大樹に対して褒め言葉は当然ない。当たり前のことだからだろう。


(後ろがね、ほら。銃口向けられてる)


 寧々のダブルデリンジャーの銃口が、こちらに向けられているのを大樹が知覚している。本来なら、接射して対象を至近距離から暗殺する武器だが、精神感応系統系能力者サイコメトラーである寧々は、離れていても確実に当てられるだろう。この場合、浮気をしたと思っている大樹が狙われるのか、怜奈が泥棒猫として排除されるのかは、寧々の気分次第だ。

 大樹が口を押さえられていても怜奈に抗議しようとすると、怜奈は至極不服そうに宣言する。


「もう、仕方ないなぁ。深山兄妹、ペナルティ」

「んげっ」


 大樹は踏み潰されたカエルのような声を上げて、怜奈が手を離した。


「しかし風見さん」

「なに?」

「妹も一緒というのには納得しかねます」

「いいの。私の決めたことに逆らうわけ?」


 聞く耳持たず。じっと見上げられて大樹は視線を泳がせる。何故か逆らえない。

 大の男二人を手玉に取る怜奈が、ばっと振り返ると寧々は銃を後ろ手に持って隠し、三人の少女たちは気をつけの姿勢を取る。

 なぜだろうか、絶対に勝てない気がする。寧々たち三人は同時にそれを察知した。


「黒兎ちゃんたちは私が訓練をしてあげる。深山のお姉ちゃんを困らせちゃダメだからね?お仕置きしちゃうよ?」


 びびくんっ。


 寧々たちは笑顔なのに、身体が引きつけを起こしたように細かく震えた。


「いくら私が美人で、かわいくって、セクシーで、いいオンナだからって、今まで通り我儘通せると思わないで頂戴ね」


 寧々たちはショックで、世界が音を失ったかのように静寂が訪れる。空気の動く気配すら消え失せ、その場が耳鳴りを覚えるほど静まり返り、怜奈の目が空を見上げた。

 形容し難い、美しさの中の鋭い殺意。直視させられたら竦み上がって、命乞いすら躊躇される雰囲気が、見るもの全ての時間を奪う。


 怜奈が右手を水平に上げると、大型対物ライフルが出現する。大樹のやる、瞬間移動系統系能力テレポートの応用で物体を取り寄せる能力。


 全長およそ千五百ミリ、重量十二キロ。怜奈の身長とほぼ同じ大きさの銃が振り回される。真紅に塗装されたそれには、真っ黒で野太いハイパワースコープが取り付けられているものの、怜奈はそれを覗こうとしない。


 プルボルトが引かれて弾丸が直接装填される音が響き、12.7mm×99の弾薬がスタンバイされる。ボルトアクション方式の狙撃銃は念動力サイコキネシスでプルボルトを動かし、弾丸を短距離転送する。怜奈の得意な戦闘行為の一つだった。

 無造作にスコープも覗かず、ライフルが振り回されて空に向けられた。


 ずどん、ずどん、ずどん。


 打ち上げ花火が上がるような轟音が三つ。視界は煙で防がれるのにお構いなし。大樹は空を見上げると何かの破片が飛び散っていた。

 大樹は始めて気付いた、ステルスの飛行物体が散ったのを知覚する。


無人航空機UAVですか」

「そ、気付いていて、なぜ落とさないの?」


 怜奈は不機嫌そうに左手を腰にして、右手で対物ライフルを振り回す。気付いていたわけではない。破壊されてから初めて気づいたのが事実なところで、大樹はすいませんと口にする。

 念動力は、一見するとゴリラ女が銃器を振り回しているように見えるなぁ、と亮が苦笑すると熱い銃口が鼻先にポイントされ、亮がハンズアップする。心の中まで読まれているような気がして亮が吃驚する。


「なにかぁ?」

「いえ」


 亮は、鼻が焦げると涙目になる。押し付けられていたら火傷では済まない。


「みやまぁ。君はこの子たちに、自分のことを教えてあげていないでしょ」


 大樹は銃口を向けられて勘弁してくれ、と目を閉じる。


 この女性、二十五にして坂上グループの統括シニアパートナーにして、独立採算性を持つ民間軍事会社PMCのアリス・ヴァルキリー社の総帥の位置に立っているだけあって、行動力も度胸も人並み外れている。そんな人物が、ここまで下って来る理由は…。


 通常、この手の話題になると寧々たちの食いつきも途端によくなるのだが、このウサギたちは完全に猛禽類に狙われている状態になっていて、動きもしない。心臓も止めて仮死になっているのではないか、と不安にすらなる。


 大樹は勇気を出して怜奈に告げる。


「あの…めっちゃ怖いんで。顔」

「はっ」


 我に返った怜奈は「あっはは!」と笑い飛ばすと、寧々たちが涙目になって怜奈を指差しながら後退する。


「うわあああああっ」

「もうほんとう嫌…」

「こわすぎ」


 寧々が叫び、亜理紗が涙を流し、真由が震えて三人が抱き合いながらその場に膝を折る。


「ひどいっ!こんなに優しくて美人なのに!」


 怜奈が肩を落とすと、大樹も亮もそれは否定しないが、キレ具合とその状況で殺気も能力解放による威圧感も変化するので、初見の人間は耐えられない。


「深山ぁ、中山ぁ」

「はいはい、風見さんは怖くないですよ」


 適当にフォローした亮に怜奈の中指が立てられる。


「中山死刑」

「えー」


 怜奈はその後、ゆっくりと二人の前を歩いて右から左、左から右へと一周する。


「正解は?深山」


 まさかの正当問題を吹っかけられた大樹がやべぇ、と顔をしかめる。


「えっと…年の功です?」

「ずどんっ」


 銃口を無造作に向けた怜奈が口で銃声の音を真似るのと、同時に大樹の首から上が吹き飛んで寧々たちが仰天する。

 飛んだのは銃弾ではなく、念動力そのもの。

 大樹の頭は穴が開くなどと生易しくない状態ではなくなった。

 首が回転しながらもげて頭がそのまま後ろにずれて飛び出し、遥か彼方では肉片に変わる。


 ピンク色のスムースと赤黒いジャムが飛び散って寧々たちにかかる。独特の生臭い匂い、白い欠片、大樹だった温度が肌に触れた。

 前触れのない凶行に寧々の反応は素早かった。理由など関係ない。反射的に敵意行動に対して応戦する。

 ネネのファントムソナタの蝶舞遊戯魅了する銀煌のシルバーチェインが発動。精神感応に使う、体表面数ミリメートルに電位変化を持たせると、ナノマシン群へ直接アクセスが始まる。それを精神感応で読み取り、銀糸を生成。真由の絶対王女の甘美な刺激自由奔放なプラマルゲイトと同様に、電気信号を相手に直接叩き込んで脳から催眠洗脳を行うものを応用、ナノマシンを支配する方法だった。


(死ね死ね死ねっ!)


 怜奈は真由から放たれる歪んだ呪いに近い視線を受けて、自分の身体に抵抗していた。催眠洗脳の出力に対抗するには、支配されないだけの精神力が必要になるが、怜奈はそれを受け流す。

 飲み込まれれば、自分で自分の首を絞めて、その骨をへし折ってしまいそうになるほどの強い暗示だ。

 怜奈は悪くない能力の出力にある程度満足する。


「おっと…あなたも相当ね」


 寧々たちと怜奈の間の空間が歪む。亜理紗の念動力が純粋に怜奈に襲い掛かり、それに対抗している怜奈と亜理紗の能力エネルギーであるパラエネルギーの衝突は、空間を重力レンズのように押し曲げる。巨大な圧力が生まれて風が生じ、歪んだ空間が外に逃げようとする熱量を内側に留めようとする。


(超極小ブラックホールが生まれたら困るかな)


 怜奈はそんなことを考えながら亮を横目で見ると、亮は小さくうなずいた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る