寧々と亜理紗と真由と
第11話
身体に心地よい重みを感じて上半身を起こすと、右側に寧々と真由、左側に亜理紗が眠っている、ベッドの上で目を覚ました。
自宅のマンションまで運ばれたらしい。
めぐりは椅子に座って、大樹が目を覚ましたことに安堵のため息を漏らした。
「で、俺は何時間寝てた?」
「三時間かな」
めぐりが椅子に座って気付いた大樹に答えると、安心したのか微笑んでいた。
ベッドに座った大樹は、自分にしがみついている寧々を抱えながら、上半身を起こすと足に真由と亜理紗が頭を乗せて眠っていて、どうりで重たいと納得する。
守らなければならない命の重たさは、心にずしりとする。
めぐりは状況を説明してくれた。
「あの場を押さえてくれたのは坂上…総一郎氏。何があったのかは、みんなには教えてあげたよ」
大樹と亮はあの後、
そこで、寧々のP2L2オーバーロードが発生した。
「坂上さんの話は聞いたけど、不可解なことが二つあるの」
めぐりは、無意識に大樹が寧々の頭を撫でていることに気付く。ちょっとうらやましい。
「僕には総一郎氏が、あの場を納められたことのほうが不可解だよ。坂上会長と言えば財閥の会長だけど、日本政府にそこまでコネがあるのか?」
「私たちのお給料…もとい、お兄ちゃんの将来の就職先も財閥がお金を出してる」
「あの、くそじじい」
大樹は顎をさすると、寧々がもっと撫でろとねだる様に大樹にしがみつく。オレンジ色のパジャマが良く似合っている。
部屋の時計を見ると日付変更前で、めぐりはひどく疲れた様子で、どことなく生気を感じられなかった。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ。お兄ちゃんは装備を二つ、常に携帯しておくのを忘れていたでしょ?」
「ブレスレッドと銃か」
大樹は指摘をされても、持つつもりはない。
「私にこれ以上、またあんな酷いこと言わせるつもり?」
取り引きがあった。
高レベルの能力者は、世界に対する負荷をかけてしまい、崩壊現象が発生してしまう。特に広範囲で致命的に、崩壊を発生させる干渉率が上昇した場合、可及的速やかにその危険性を排除しなければならない。
そのために必要なものは、遠隔操作で起爆できる反物質爆弾で、半径五キロメートルをもろとも消滅させるブレスレッドだった。
「お兄ちゃん言ったよね。この子たちには、そんなものは絶対に持たせないって」
「言ったよ。もしそんなことになったら、僕が飛んでいって一緒に消えるって」
「じゃあ持ってなさいよ。死んだら殺すけど」
(満面の笑みで何を言ってやがる)
大樹は、曇った笑っていない瞳で笑顔を作っているめぐりに、背筋に冷たいものを感じた。
「これは絶対に、何時でも持っていて」
ブレスレッドを投げつけられて、大樹はそれを眺める。円環のブレスレッドはダイヤル式のように、上半分と下半分が回転させることが出来る。
「どうぞ」
目の前で装着しろ、とめぐりがじっと眺める。
「臭くなったりしない?」
「そのままお風呂も入れるから便利よ?最新技術式だし?」
「嬉しくないね」
大樹は、逃げ場がないなと、円環の中に左手を通すと、自動で収縮して手首にすっぽりとはまる。
「総一郎氏が特別に調整したものよ?手の内側にある六角錐を上下で回して合わせると起動するわ。私のも一緒に」
胸元の双六角錐のペンダントを取り出して、めぐりは手の中で転がして見せる。能力者は全員その携行を求められている。
「お前は能力者じゃないのになんで…」
「お兄ちゃんが、その中のお姫様の一人と心中するとき、私の顔も思い出してもらおうかなって」
「洒落にならないんだよ、それ」
めぐりは黙って席を立って、ドアの前に立ち止まった。
「そのキングサイズのベッドって、総一郎氏が買ってくれたんでしょ?」
「こういうことを考えてたとか?」
大樹が冗談で言うと、めぐりは神妙な顔つきに変わる。
めぐりは時々、総一郎の先読みが恐ろしいものに感じられた。世界を手玉に取って第三次世界大戦をやりくりして今の地位を築いたし、封印された機密資料には、総一郎が関わった資料も存在しているらしい…。
「めぐり、明日の朝飯…買ってないや」
「…明日、ご飯炊くつもりないよ?どうするの」
「いやぁ色々あったからさぁ。こんなだし」
大樹は自分の周りに寝ているお姫様が、離れてくれなくて困っているアピールをすると、ぱちっと三人が目を覚ました。
「朝ごはんは、ないと困るよー」
亜理紗が上半身を起こして不満を口にした。いつも通りののんびりとした口調だが、はっきりと嫌がっていることだけは分かる。
こいつら、人の話を聞いてたのか?
大樹はドアの出口を指差す。
「ご飯を買ってきますから、自分の部屋で寝なさい」
「えー。このままでよくない?」
「ん、めんどい」
「今、ご飯食べたい」
寧々、真由、亜理紗が口々にわがままを始める。いつものことだし収集は着かなくあるので、めぐりが黙って笑顔で大樹の対応を待つ。
寧々が、胸元のかなり深い部分までボタンを開けて素肌を露出し、前傾になって身体をくねらせて見せた。
「セクシーポーズ、どう?」
「残念、いろいろ足らない。出す部分も、大きさもなっ!」
大樹は三人をベッドから放り出すと、三人が渋々と文句を言いながら退室して言った。
「全く。大人をからかいやがって」
怒る大樹にめぐりはそれがだめなんだよ、と呆れる。
(いやそりゃ、顔を真っ赤にして対応するから、子供が楽しむんだよ)
めぐりは大樹が悪い、と思いつつも性格なので、修正のしようはなさそうだと諦めた。子供なのか、大人なのか、全力でぶつかるから子供たちは喜ぶ。それだけだろう。
オフィル、ガーデンも能力が一人前になると、どんなに甘えたい年齢であろうと一人前、大人として扱われる。最も進んだ能力主義で、そこの姫君ともなれば周囲からも大人として扱われるのは早い。
「ねぇ、お兄ちゃん。あの子たち何か隠してるよ?」
めぐりの疑惑に大樹は、寧々に対しての精神感応を実行することを思い立ったが、それもできないことを思い出す。
「高レベル精神感応者の坂上に、サイコメトリーできないんだっけ?」
「坂上さんの
自動発動型の深層領域精神感応に対して、女性騎士護衛が現れるという報告があったものだ。脳内に送られたイメージのそれは、本人が望まない場合は攻撃を仕掛けてくると、亮の報告書にあった。
「あの子達、亮三佐の精神感応を逃げたの。きっと何かを隠してる」
「言いたくないことの一つや二つ、誰にだってあるだろ?特にあの子達は子供なんだ。子供は子供のルールで色々考えているのかもしれないし、大人の理不尽に付き合ってもらう必要もないんじゃないか?」
めぐりは、深くため息を漏らす。あの子達が付け上がる原因の一番は、この人たちにありそうだった。上層部にしろ、男連中は女の子にとことん甘い。よくこれで運営が成り立つと思うし、自分もまだ学童の最高学年と同い年だ、と唾棄したくなる。
「坂上会長…でいいか」
突然現れた大物に、めぐりはまだ彼という人物の立ち居地を定められていないのか、呼び名がころころ変わるが、会長で落ち着いたらしい。大樹は、めぐりが欠伸をして立ち上がったのを見て部屋を出て行く。
(ぶつぶつと独り言が多いのは、歳を取った証拠だぞ…精神的に)
めぐりの後姿を眺めて、大樹はベッドに横になって伸びをする。
「太陽と石鹸と…火薬の匂いだ」
大樹は乙女の残り香にしては、危険な香りを鼻に感じて目を閉じる。
「火薬カヨ」
大樹は枕の下に手を入れると、それがそこにあった。
でかくて重くて非常に硬い、貫通力のある危険な代物。
「ファイブセブン」
大樹はそれを取り出して、ずっしりとした感触に気分が高揚する。男というのは武器に触れると、それだけで楽しくなるのはどういうわけだろうか。
(ま、男だけじゃないんだろうなぁ)
コレを持ち込んだのは十中八九、寧々だろう。嫌なことがあったり、怖い思いをすると、武装を強化する癖があるのは昔からの報告書で読んでいた。精神感応能力者は武器の特性を、一瞬で理解して使いこなすことが出来るので、銃の扱い等はプロクラス。しかもその武器が、達人や名人クラスが使っていたことがあるものならば、そのクラスで使用できる。
その上での高火力装備をしたがるのは不安への反発なのだろう。
(戦闘能力に関しては、向かない能力なんだよね)
大樹は自分もそうだが能力者の中でも戦闘に向き、不向き、の能力があると思っていた。
瞬間移動能力、精神感応能力、催眠洗脳能力。戦闘で言えばやはりESPより。即時実戦効果を出すにはPK系統が一番。それは自身にも言えることだ。
「…にしたって、亜理紗のあの性格は攻撃に向いてないんだよな」
うーん、うーん、と運用を悩み始める。
戦術的効果を計算しながらベッドで横になる大学生など、世界でも自分だけだろう、と大樹は自嘲気味に笑った。
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