第33話 4・英雄賢者の拾い子 リープ
「俺は捨てられているリープを見ても他の捨て子と同じように始めはスルーしようとしたさ。でもな、感じちまったんだよ、魔法の才能を」
今までの自分語りの時とは違いツヴァイさんの表情は神妙なものへと変貌していた。
「才能を感じた、ですか?」
「賢者特有の直感っていうやつなのかね、あの子に秘められた魔力の臭いを瞬時に感じとってしまった」
「魔力……」
この世界に来てから『魔法』という単語はよく耳にしたが、『魔力』という単語を聞いたのはそういえば初めてかもしれない。
俺はそこが突っかかりすぐにツヴァイさんに質問してみることにした。
「あの、魔法や賢術って唱える時に何か消費したりするんですか? 例えばその魔力とかマジックポイントとか……」
これは前々から気になっていたことだ。
ゲームなどでは魔法を唱えるにはマジックポイントのように何かを消費する必要がある場合がほとんど。
その割に一番身近な魔法を使うレティが何かを消費したり消耗したりする様子を見たことがなく、違和感をずっと覚えていた。
「ああ、魔力とは自らの生命エネルギー……まぁ気と同じようなものだな、魔法を使うには体内にあるその魔力を消費しなければならない。どれだけ体内に魔力を貯蔵できるかは個人差があるし、全く魔力を貯め込むことができない人間だって珍しくはないんだ。魔法使いになるには体内に一定以上魔力を貯蔵できなければならない」
「その貯蔵量がそのまま魔法使いとしての才能、ということですかね」
「一概にはそう言えないが最低条件ではあるな。シンなんて魔力無いから魔法使いは無理だぞ」
なるほど、人が身体の中に持つ魔法を唱えるためのエネルギー、それが魔力か。
おそらくゲームのように勝手に体内で生成されるものなのだろう。この魔力を一度に大量消費すれば必然と魔法も使えなくなるってことか。
「おそらくお前が気になっているのはレティのことだろ。天才だのなんだの言われているけど彼女は賢術を使えない。あれ? って感じだろ」
うっ、お見通しか。
正直これまでレティを見てきてもどの辺に天才要素があるのかわからなかったんだ。
魔法の威力や精度が優れているのかもしれないけど、この世界の住人でもない俺にはそれを測る物差しがなく判断できないし。
「レティは体内に貯蔵する魔力に限界値がない。つまり彼女は魔力の永久エレルギー機関を体の中に持っているんだ」
「えっ、てことは体内に魔力が無限にあるってことですか!?」
「それが天才魔法使いと呼ばれる由縁だな。彼女のユニーク・アビリティ『アンリミテッド・ジェネレーター』は体内の魔力を一切枯渇させず生産し続ける能力。その貯蔵しておける量も限界値がなく、どんなに消費の激しい強力な魔法も連発できてしまうほどな」
「それがレティの才能、ですか」
「そうだ」
そういえばレティのユニーク・アビリティは不明のままだったが、サラたちのように技や特殊能力的なものではなく、もっと単純に彼女自身を形成しているような能力だったのか。
どんな強力な魔法が使えてもその分消費は激しく限界がある、だがレティにはその限界という概念がない。何度でも一番強力な魔法を唱えることができる。
この魔法を扱う者なら誰もが羨むような無限の魔力こそがレティの魔法使いとしての才能。
「話を戻すけどよ、リープは元々魔力の貯蔵量自体は少なかったが、俺は体内にある研ぎ澄まされた魔力を感じたんだ」
「研ぎ澄まされた……?」
「賢術はな、普通の魔法を唱えるよりもさらに己の気と融合させた魔力が必要になるんだ。でも、その適合条件は俺にもわからない。無限魔力を持つレティにだってその域には到達することはできていないんだ」
「でも、リープは賢術を扱えるんですよね……ということは」
「ああ、俺がちょっとイメージを教えただけですぐに賢術を使うことができちまったのさ。ただ試してみるつもりだったが俺も驚いたよ」
レティが魔法の天才ならばリープは賢術の天才か。
無限の魔力貯蔵庫のレティに対し、貯蔵量こそ少ないが見よう見まねで賢術を扱うことのできてしまうリープ。
そんな二人の天才が「シン」の近くに二人も……。
「これは流石に俺も見逃すわけにはいかず一緒に生活して賢術を教え込むことにした。この世界に賢術を扱うことのできる者はほんの一握りしかいない。その一握りがその辺の道に捨てられてたってんだ、俺がリープと出会い賢術を仕込むことは使命だったのかもしれないな」
「それからここで生活したり、あの魔法陣を使って一緒に研究をしたりしていたんですね」
「そうだな、基本的に俺たちはここを拠点として生活していた。やがてリープもその秘められていた類い稀なる才能を発揮し、どんどんと力を付けて賢者と名乗るのに申し分ないほどに成長したわけだ。そんな時だよ、シンがここに迷い込んだのは」
こんな密林にどうやって迷い込んだんだろ……というのは野暮なツッコミなんだろうか。
「シン」って仲間がいるはずなのに聞いている限り結構単独行動している気がする。
「あの頃のシンはまだ『ゼウスの神眼』も発動することができねーでいてよ。まぁ、それなりに戦いの極意やらコツなんかを伝授したものだ」
「まだその時は今みたいに滅茶苦茶強かったわけじゃないんですね」
「と、言っても数日のことだったんだけどな。シンがここを出ていく時、リープがシンを気に入ったのか一緒に付いていきたいって言い出してよ。俺はリープに賢者として一人前に育ってもらいたいし、背中を叩いてこころよく送り出したっけな」
シンの強さはそれまでの経験やツヴァイさんに色々教えて貰った技術によるものなのだろう。
しかし、彼のユニーク・アビリティ『ゼウスの神眼』についてはまだ不明のまま。ここにいた時にはまだ発動できていなかったというと、その後に何かあったのだろうけど……。
「ここが第二の理由でもある」
「?」
ツヴァイさんは右の人差し指と中指を立てて『2』の形を作りながら言葉を続ける。
「『リープ』ってのは俺がつけた名前でな。リープが自分の名前がわからないってもんだから俺が勝手につけた。俺は完全独り身だ、リープの本当の家族になってやることはできない。彼女には自分の家族となる場所を見つけてほしい、俺のもとから立派に飛びだってほしいっていう意味を込めたつもりだ」
リープ、跳躍とか移動とかそういう意味か。
何もない一人だった場所から力も家族も手に入れるほどまで成長してほしい、そんな思いが込められている名前なのだろう。
「ファミリーネームを与えなかったのもそのためだな。付けるのはそこに辿り着いたその時だ。だから今はそれだけで我慢させている」
「なんか、いいですね。そういうの」
「だろ? で、どうだシン、リープを貰ってはくれないか?」
急にズズイッと俺の方へと顔を近づけるツヴァイさん。
またこの話か! シンさんモテモテですね本当に!!
「ってお前に言ってもしょうがないよな、はははっ」
ツヴァイさんは冗談だと言わんばかりに俺の肩をバンバンと力強く何度も叩く。痛い痛い。
「いてて、人の好意を受け流すのってすごい罪悪感感じるんですよ。冗談じゃ済まないですって……」
「それはシンの体に入ってしまったお前の宿命だ。なんとか頑張れ」
「えぇ……」
「ツヴァイさーん、水汲んできましたけどー」
そんなやり取りをしていると洞窟の外からサラの声が聞こえた。
どうやらツヴァイさんが俺と二人になるための口実だった川への水汲みが終わったみたいで、リープを先頭に俺たちのもとへと駆け寄ってきている。
「おう、ありがとよー。と、話はここまでだな弟子よ。また二人きりになった際にはなんでも相談してくれや」
ツヴァイさんが俺の肩に今度はポンッと優しく手を置き、俺は激励してくれた。
ゴツゴツとしている第二英雄の手は唯一俺の事情をしる理解者の手。この手は俺に何か困ったらこの人に聞きにくればいいという安心感を与えてくれる。
「ありがとうございます、師匠」
「……何話してたのシン?」
一番乗りで到達のリープが俺の元へと駆け寄ってきた。
大人しくもマイペースと印象を覚えるリープだが、この子は親に捨てられていた状態から第二英雄に拾われ、魔王を打ち倒す英雄の仲間にまで成り上がったシンデレラガール。
ツヴァイさんや「シン」といった人との出会いが彼女の人生を大きく変えていたんだ。
「……うわ、なんで頭に手を」
「まぁ、ちょっとね」
仲間の過去を知る度に俺は彼女たちと何か繋がりのようなものが生まれている気がしていた。
その人の過去や境遇を知ることによって真の信頼関係が生まれる。それはただの馴れ合いでもない、互いに信頼を寄せあった本当の仲間という意識。
俺が本当のことを語っていない関係上互いの信頼関係は一方的なものになっているため、彼女たちとは真の信頼関係を築くことはできていないのだろう。
それでも今は許してほしい。俺に君たちを信頼させてほしい。俺と一緒にいてほしい。
俺、倉本真の仲間も君たちであることに違いはないのだから。
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