第15話 見回り交代の日
「うーん……」
次の日の朝食の時間、俺たちはいつもの部屋に集まっていた。
今日はリープも起きれたようで自分の席に座って食事が運ばれてくるのを待っている。
それより問題は、
「違うの……違うの……私にそんな趣味はなくて……違うの……」
なんか一人俯きながらぶつぶつ喋っているサラと、
「……ッ! …………っ」
なぜか俺と目を合わせるとすぐ逸らしてしまうディアだった。
この二人は昨日俺とレティが帰ってきた際に何やら百合百合した雰囲気だったようなのだが、その事が関係しているのだろう。
ディアなんて俺が話かけたらすぐに逃げちゃったし。
サラが「シン」に好意を抱いているのは俺も知っている。
あれだけ親しく接してくれるんだ、男よりも女優先というのは考えにくいと思う。
考えられるとしたら男女両方いける二刀流趣味というわけのだが……。
「違うの……私は…………私、は……」
どうなんだろうな……。
あんまり個人の趣味にとやかく言うつもりはないけども。
「あ、そういえば今日は見回り交代の日だっけ。ルーナたち戻ってくるんだよね?」
「うん……。確か、そう……」
「そっか~、次は私たちが行かなきゃかー」
見回り交代。
魔王を倒し、英雄に認定されるほどにもなった俺たちは国王直々に国の見回りをしてほしいとお願いされていると聞く。
俺たちは人数が多いので二手に分かれて交代しながら行っているんだとか。
「……今回は『アンリクワイテッド』の方だ。私たちもルーナたちが戻ってきたら入れ替わりで出発しなければならん」
「ここ数日は認定式挟みながらもルーナたちに任せっぱなしだったわけだし、しょうがないか~」
俺は一昨日に近くの霊鳥の森へは行ったが、本格的に町を離れるのは初めてだ。
思えばこの世界の地形がどうなっているのか俺は知らない。
陸続きなのかな。それとも日本のように島として独立しているのだろうか。
国、と明確に隔てられているようだし、他にも国が存在しているってことなんだろうけど。
今度サラに地図でも見せて貰おうかな。
「というわけで朝食の後はすぐに準備を……」
「おっはようさ~~っん!! 認定式以来だな~!」
「うわっ、ソーラ!?」
部屋の扉を勢いよく開けたのは料理を運ぶコックではなく、見回りに行っていたはずのソーラだった。
この後、と聞いていたが予定よりも早く到着したのだろう。
「はぁ~腹減ったぜ……。お、ようシン! 元気か~?」
「あ、ああうん。おはよう」
「ちょっとソーラ、お行儀が悪いわよ」
ソーラの後ろから現れたのは姉のルーナ。
太陽と月のように正反対な性格をしている二人だが、これでも姉妹なのだ。
「あ~ん、いいだろう別に? 全くいちいちうるせーなルーナは」
「……”ソーラちゃん”?」
「ぐっ……」
始まった。
前も見たがソーラがルーナを怒らせ、姉妹喧嘩が始まるいつものやつだ。
その時はリシュが止めに入っていたが、果たして今回はどうなるやら。
「落ち着きのないソーラちゃんには『メイク・ア・ブリザード』で無理やり動けないようにしてあげましょうか?」
「へっ、ルーナは横文字ダメなくせにかっこつけて名前つけるんじゃないぜ。本当にそれで意味通ってんのかぁ?」
「なっ……! 『吹雪を作る』だから『メイク・ア・ブリザード』で合ってるんじゃないの!?」
「どーだか、わからないんだったら俺みたいに『ネオ・ボルケーノ』って簡単なやつにすればよかったんだよ! 間違ってたらクソ恥ずかしいしな」
「だ、大丈夫よ。間違っているはずないんだから……!」
自己申告制なんだ。ユニーク・アビリティの名前って……。
『ネオ・ボルケーノ』は超火山とかそういう意味か。ソーラの能力は火を操る系だったはずだから確かに単純明快だ。
……まぁ、俺がルーナの能力を持っていたら『クリエイト・ブリザード』とか名付けていたかもしれないかな。
「……シン」
「ん?」
扉の前で口喧嘩をする姉妹をよそに、俺の背後から声が聞こえた。
振り向いてみると、声を発したのはあの姉妹と共に見回りをしていたリシュ。
うるさい人たちがいるので気付かなかったが、いつの間にか部屋の中に入っていたようなのだ。
「……ただいま」
「お、おう。おかえり」
実は俺は彼女のことが気になっている。
無論恋愛的な意味ではなく、彼女の能力についてだ。
リシュのユニーク・アビリティ『トリシューラ』。
あれは『ゼウスの神眼』を発動した「シン」の使う『ケラウノス』や『アイギスの盾』と同じ『神器』のはず。
それを扱える彼女は仲間内でも特別な存在と見ているが、どうだろうか。
今度ゼウスのじいさんに聞いてみようかな。
「……お腹空いた」
「もう料理来るだろうから座って待っていような」
「……そうだね」
リシュの口調はどこかリープに似ていて口数も多くはない。
ワーギャー騒ぐサラたちに比べるとなんか落ち着くなぁ。数少ない落ち着きポイントだよ。
「シン……シン……違うの……違うの……」
そのサラは未だにあの状態だし……。
「あ、あの~……」
コックは扉の前で喧嘩するルーナソーラ姉妹に困っているし。
ははは、愉快な仲間たちだなぁ……ほんとに。
◇ ◇ ◇
「じゃあ私たちが見回りを引き受ける。後はよろしく頼んだ」
「はい、任されました」
朝食を終え、準備を済ませた俺たちはフローラ家の屋敷を出ようとしていた。
距離的に日帰りはできないようで、移動は馬車に乗るらしい。
「よろしくお願いしまーす!」
「おう、任せときなさい」
馬車に乗るなんて生まれて初めての体験だ。
現代日本では馬車で移動するなんて考えられないし、王子様やお姫様が出てくるようなお話でしかないものって印象だったんだが。
なんかおとぎ話を実体験しているみたいでワクワクしてきた。
「ちょぉっっっっっっっっっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「え」
「何?」
俺たちが馬車に乗り込もうとしたその矢先、道の向こう側から何やら声が聞こえる。
その声の主はすぐさま馬車の元に着き、足の裏で地面をドリフトする音が俺たちの視線を釘づけにした。
「ハッハッハッハッ、待たせたね。僕の到着さ」
「……」
誰?
また新キャラ?
「ん? おお、ディアちゃん。会いたかったよ、マイハニー」
「ム、ムラサメ? なんでここに……っていうか離れろ!」
そのいかにもキザっぽい男はディアを見つけるなり手を取って肩を抱いた。
ハニーとか言ってるけどディアの恋人……には見えないよなあれじゃあ。
「さて、『第4英雄』御一行。今回の見回りにはこの僕、ムラサメ・ブレイエッジが同行させてもらうことになった!」
「なっなんだと!?」
まーた騒がしいのが増えたよ。
今の俺は紅一点ならぬ男一点だったから肩身の狭い思いはしていたけど、こういう騒がしい男は求めていないのだが。
「よろしく、英雄」
「ははは……よろしく」
俺はいちいちファサッと前髪を掻き上げ、バサッとマントを翻す彼をただ引き攣った顔で見ることしかできなかった。
それは俺だけじゃないようで、サラやレティも彼に冷ややかな視線を送っている。
間違いない、こいつは残念系だ。
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