第149話 帰国
――フツーラ視点
主であるアプリリア様に命じられ、俺はブレイブが姿を変えたと思われるラピスという女を探っていた。ボルドール王国と言う国に拠点を構えているのは解っていたが、どこの街に住んでいるのかまでは知らなかったので、探すのに随分手間取ってしまった。やっと奴とその仲間が住み処としている一軒家を見つけたのは良いが、奴等が出入りしている様子がない。知人のフリをして家を訪ねたが、メイド服の女からは大した情報を得られなかった。どうやら全員でどこかに修行に向かったらしい。いつ戻るのかも不明なため長期戦を覚悟して街に滞在していると、おかしな事になってきた。
驚いたことに、ラピスとその仲間が指名手配されたというのだ。それと同時に全身黒ずくめの装備に身を包んだゴロツキ共が街で幅を利かせ始め、街全体がおかしな雰囲気になってきた。魔族の俺としては過ごしやすい環境になったが、潜伏しなければならない状況で治安の悪化は避けたいものだ。
念のために黒騎士連中も調べてみたが、奴等からは微かに魔族と同じ匂いがしていた。おそらく、どこかの魔族が力を与えているか、操られているかのどちらかだろう。いや、もしくはその両方か。馬鹿な人間を操って人間同士を争わせるなど、我々もやってきたことだ。他の魔族が同じ事をしても不思議じゃない。だが問題は、その勢力がアプリリア様の邪魔になるかどうかだ。邪魔になるなら潰さなければならないし、そうで無いなら放置だ。
結果として、ボルドール王国での内乱はラピス達の活躍によって鎮圧された。だが戦いの傷跡は深く、多くの人間は傷つき疲弊し、命を落とした者も少なくない。どこの魔族かは知らないがなかなか上手くやったものだと感心する。あれだけ国が疲弊すれば、直接攻め込むにしたり、変装した魔族を要職に就かせて内部から操ったりと、色々やれそうだ。一応アプリリア様に確認を取ったが、俺は監視を続行するように言われただけだ。つまりは手出し無用。アプリリア様にしては随分消極的だと思うが、ひょっとしたら、どこかの勢力と密約でも結んでいるのかも知れない。その代わり、俺は新たな使命をアプリリア様から与えられた。
このボルドール王国の北にあるゼルビスと言う国への潜入だ。既に現地で潜入している配下と合流し、ゼルビスでの内乱を誘発せよと言うものだった。命じられれば否も応もなく、俺はボルドール王国を後にしてゼルビスへと向かった。それがどんな結末を招くとも知らずに。
――ディエーリア視点
久しぶりの里帰りだ! 色々なことがありすぎて国を出てから随分経っているような感覚があったけど、私が旅立ってからまだ一年も経っていないのが驚きだった。思い返せば何度死にかけたか……。それでもしぶとく生き残れているんだから、私を強くしてくれた仲間達には感謝だよね。
国を出る時は盛大な見送りなんかなくて、面倒を押し付けられただけって感じだったのに、それがどう? この手の平を返したような歓迎ぶり。まるで救国の英雄が帰ってきたみたいな扱いじゃない。私は半ば呆然としながら、多くの人々が出迎えてくれる様子を眺めていた。
「お帰りディエーリア。元気そうで何よりだ。活躍は聞いているよ」
笑顔を浮かべる人達の中からスッと現れたのは、この国の議長である私の叔父、ディルクだった。
「ただいま戻りました。議長」
握手を交わす自分の顔が自然と緩んでいるのを自覚する。やっぱり祖国に帰ってきて気が緩んだんだろうか。馬鹿話ばかりしている印象の叔父でも、こうして顔を合わせると嬉しくなってくる。
「ディエーリア。君のお連れさんを紹介してくれないかな?」
「ええ。彼女達は私の仲間で、ボルドール王国の勇者達です」
「おお! 彼女達が!? こんな若くて綺麗なお嬢さん達だとは思わなかった。初めまして皆さん。私はこの国の議長を務めるディルクと申します。姪がお世話になっているようですから、もちろん歓迎しますよ」
初対面から面と向かって養子を褒めてくる相手は初めてなのか、私が姪だと言うことに驚いたのか、ラピスちゃん達は戸惑った反応だった。でもそこはやはり勇者パーティーと言うべきか、表情を改めたルビアスは、叔父さんから差し出された手とガッチリ握手する。
「初めまして議長。私はこのパーティーのリーダーを務めるルビアスです。こちらがパーティーの前衛担当のカリン。そり隣が魔法使いのシエル。そして最後の彼女が我々とディエーリアの師匠でもあるラピスです。以後、お見知りおきください」
「みなさんの噂はかねがね伺っています。こうして直にお会い出来て光栄ですな。ところで、ルビアス殿は確かボルドール王国の王女様では……?」
「ええ、よくご存じで。確かに私はボルドール王国の第三王女です。ですが、今は一人の勇者として活動しているつもりですので、身分についてはお気になさらないでください」
「……わかりました。では、この国に滞在している間は、一人の勇者として扱わせていただきます」
王女様が国に来たら国賓待遇で持てなすのが普通なんだろうけど、勇者だとそこまでしなくても良いのかな? なんかあまり大差がないような気がするんだけど、ツッコんだら負けみたいだし黙っておこう。
「みなさんの歓迎も兼ねて今日は宴を催すつもりですが、それまではまず、ディエーリアを呼び戻した目的について話をしたいと思います。みなさんもご一緒してもらって構いませんか?」
「もちろんです。ディエーリアが呼び戻された理由は聞いていますし、我々で出来る事なら協力するつもりです」
「それはありがたい。ではこちらに」
クルリと背を向けた叔父さんに続いて通りを歩くと、見知った顔がチラホラと笑顔で手を振っているのが目に入る。かつての上司や同僚に加え、昔通っていた店の店員さん達まで出迎えてくれていた。そこまで親しい間柄じゃなかったはずの人達にまで笑顔を向けられると、なんだかむず痒い思いだった。
「みなさんはそちらにかけてください。早速だがディエーリア。今回の目的について話をさせてもらうよ」
「わかりました」
叔父さんの対面に座った私を中心に、左右に仲間達が腰掛ける。議長の執務室にあるソファはかなりの大きさなので、大人が五、六人腰掛けてもまだ余裕のある大きさだ。目の前に用意されたお茶に手を伸ばして叔父に目をやると、彼は一つ頷いて話を始めた。
「各地で魔物が増えているのは、もはや周知の事実だと思う。原因は恐らく魔族にあるのだろうが、調べようがないのでそれはこの際置いておくとして、問題はどう対処するかだ」
「私を呼び戻すぐらいだから、軍だけじゃ対処出来ない数が国内に居るって事?」
「確かに数は多いんだが、質も問題なんだ。ハッキリ言って奴等は強い。同じ魔物でも以前とは比べものにならないぐらい強くなっていて、こちらの被害も馬鹿にならないのだ」
同じ魔物でも比べものにならないぐらい強い? それってどこかで聞いたような……
「それはひょっとして、魔境の魔物がこちら側に流れているのではありませんか?」
シエルに言われて思い出した。確かに、魔境の魔物なら強くても不思議じゃない。ただのゴブリンが駆けだし冒険者を上回る事もあるぐらいだ。
「その可能性はあると思う。だが、我が国は魔境と接していないのだ。知っての通り、我が国の西にはレブル帝国が存在する。魔境の魔物が帝国の領土を横断して我が国に入ってくる可能性は低いと思うが……」
『…………』
叔父の言葉に、みんながいたたまれない気分になった。たぶん、その可能性の低い事が現実に起きているとわかったからだ。何故なら、レブル帝国は魔族と手を結んでいる可能性が高いから。つい最近レブル帝国と手を組んだと思われるスティードに国を引っかき回されただけに、私達には確信があった。
「叔父さん。つまり私達にその原因を突き止めて欲しいってこと?」
「そうだ。いくら君達が強かろうと、国内のあちこちに跋扈している魔物を討伐して回れと言うのは酷だろう? 一時的に減らす事は出来るだろうが、根本を断たないといつまでも解決しないからな。だから君達には魔物が強くなった原因を調べてもらいたいのだ」
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