第81話 作戦開始

――ルビアス視点


城に潜り込む事に成功した。後は魔族が誰かを特定し、いざという時に迷い無く切り捨てられるようにしておかなければならない。師匠より託されたこの重要な仕事、決してしくじるわけにはいかない――そう思って行動していた私だったが、同行していたディエーリアに窘められる事になってしまった。


「ルビアス。気持ちはわかるけど、そんな目つきで睨み付けられたら、魔族じゃ無くても警戒するしビビるでしょ」

「……私は普通に話しかけたつもりなんだが」


どうやら知らない間に、私の表情は他人ほ怯えさせるほどキツいものになっていたらしい。自然にすれ違った風を装いながら、一人一人城内のメイドに声をかけていったのだが、なぜか彼女達は私に声をかけられると、そろって腰が引けたような状態になってしまっていた。その原因がまさか自分の目つきにあるなんて思いもしなかった事だ。


しかし言い訳の一つぐらいはさせて欲しい。私は生まれた時から王族として過ごしていたので、他人との日常的な会話という経験が普通の人間に比べて極端に少なく、おまけに立場が立場なので、一方的に質問して答えが返ってくると言う状態が普通だったのだ。そんな私が、他人をリラックスさせながら会話の中に質問を織り込み、自然に知りたい情報を引き出すなんて芸当が出来るだろうか? 答えは否だ。自分で言うのも何だが、私のコミュニケーション能力はパーティーの中で一番低い。たぶん日々受付嬢を務めている師匠の足下にも及ばないはずだ。


だったらこの時だけで良いから、交渉事はディエーリアに代わってもらおうかと思ったのだが、彼女は頑として私が調べるべきだと主張した。


「私は普通の平民だから、やろうと思えばいつでも出来るの。それに比べてルビアスはまだまだ世間知らずでしょ? ここで会話を続けていれば、きっと良い経験になると思うよ。ラピスちゃんも期待してると思うし」

「そ……そうか? そうなのか?」

「うんうん。そうに決まってるって」

「……本当にそうなのか?」


そんな事を言われれば、どこか腑に落ちない気持ちを抱えながらも私が調べを続けるほか無かった。そうやって大半のメイドを怯えさせるだけに終わったと思った私の捜査も、後になって私が予期せぬ意外な形で報われる事になったと知らされた。


「特定できた? 魔族を?」

「うん。ルビアスが調べてくれたおかげでね」


なんてことは無いと言う風に言い切ったディエーリアに、私はポカンと口を開けて突っ立っている以外の反応が出来なかった。一体いつの間に? 私が知らない間に彼女は彼女で調べていたのか? いや、そんなはずは無い。彼女はずっと私と共に行動していたし、就寝時間も同じだった。寝たふりをして夜中に抜け出し調べたのかとも考えたが、私達が寝ている時はメイド達の大半も寝ている時間帯だろうから、それも不可能だ。一か月二ヶ月と時間をかければそれも可能かも知れないが、たった三日で何が出来る? まさか私の知らないような能力が彼女に? 悶々と頭を悩ませる私を苦笑しながら眺めた後、彼女はアッサリと種明かしをしてくれた。


「簡単だよ。ルビアスの迫力にビビらなかった人を選んだだけ」

「……は?」


思わず目が点になる。ビビる……つまり怯えると言う事か? 私に?


「普通のメイドさんは明らかにビビってるのに、ビビらないどころか笑顔の人がいたら目立つでしょ? 一人はラピスちゃんから聞いてた特徴にも合ってたし、あの二人で間違いないね」

「……そうか」


納得いかない理由だが、深く尋ねようものなら自分が無駄に傷つくだけな予感がしたので、私はそれ以上訪ねようとはしなかった。



――ディエーリア視点


城に滞在を始めてから少しも気の休まる時間はなかった。それと言うのも、食事に薬を混ぜられるんじゃ無いかとか、寝てる時に襲いかかられるんじゃないかとか、とにかく周りの人間が信用出来なかったからだ。毎晩夕食を同席していた国王様は段々遠慮が無くなってきて、昨日の夜は懇願からほぼ脅迫に近い言い方で魔王討伐へ向かって欲しいと頼まれていたしね。


魔族に脅されているだろうから最初は気の毒に思っていたんだけど、流石に私もそんな態度に腹が立ってきて、文句の一つも言ってやりたくなった。でも国王様との交渉事は全てルビアスに任せる事になっていたし、交渉なんてした事も無い私が口を出してもろくな結果にならない。だからルビアス達が話し合っている間、私はずっとご飯を食べる事だけに集中していた。得手不得手は誰にでもあるから、これは別に間違った判断じゃ無いと思う。うん。決してサボりたかったわけじゃないんだよ。


のらりくらりとそんな王様の頼みを躱し続けたルビアスだったけど、ちょうど滞在三日目の夜――つまりついさっきの事だけど、ようやく事態に変化が訪れた。ラピスちゃんが指定した作戦決行の日時。午後八時ちょうど。その時間がついに訪れたからだった。


突然、王都の四方八方から天に伸びるような光の柱が立ち上ったかと思うと、それはちょうど街の中心部で絡みつくようにもつれ合うと激しい光を放ち、一瞬の後には王都全体を覆うような光のドームを形成していた。窓からその光景を見ていた私は背後のルビアスを振り返る。


「ルビアス!」

「ああ、いよいよ始まったな。予定通りに始めよう」

「わかったわ。頑張って!」

「そちらもな。決して無理はするなよ!」


城内に潜む魔族は二人。こちらも二人だから、それぞれ魔族を一人受け持つ予定になっていた。予め戦闘準備を整えていた私達は、見張りと護衛を兼ねて扉の前に陣取る騎士二人を不意打ちで気絶させた後、別方向に向かって走り出す。ここからは時間との勝負だ。急がなきゃ!


「でも……大丈夫かな? 一対一で魔族と戦うなんて……」


最近色々鍛えてはいるけど、私は弓で遠距離から戦うのを得意としてるし、戦場としては狭い場所である城の中で、魔族相手にどこまで通用するか不安で仕方ない。でも今更逃げられないしね。覚悟を決めよう。


――バンディット視点


「時間か。神聖魔法は成功したんだな」

「兄さん、私達の準備は出来てるわ」

「よし! じゃあ一暴れしてくるかな!」


俺達パーティーは宿を抜け出すと屋根の上まで跳躍し、街の礼拝堂に建てられている大きな鐘楼を駆け上っていった。三日間街を探索したものの、魔族の気配を掴む事が出来なかった俺達は、この見晴らしの良い場所から異変を見つけて対処しようと決めていたんだ。街を一望出来る高さだけあって、ここからなら何処で何が起きているのか一目でわかる。既に街の各所で派手な戦いが起きているみたいだ。


「一際派手なのはラピス嬢やアネーロ達だろうな。となると――」

「私達はそれ以外」

「神官と間諜達の援護に回らないとね」


俺の言葉を妹達が続けてくれる。そう。勇者パーティーの面子なら単独でも何とかするだろうから、俺達の仕事は力で劣る彼等の援護だ。彼等は当然として、一般人に被害が出る前に全てを終わらせなきゃいけない。


「行くぞ!」

「ええ!」

「まかせてよ!」


鐘楼から勢いよく飛び降りながら、俺達は手近な戦いの場へと急いだ。


――アネーロ視点


作戦開始の時間が来る少し前から、私達は魔族の潜伏先だと黙される危険地域に足を踏み入れていた。浮浪者も野良猫の姿も無い人気の無い場所だというのに、周囲からは複数の視線が集まっているのを感じる。それも殺気混じりの強烈なものが。それは明らかに私達を敵と認識した視線だ。


「数は……十人程度か?」

「そのようです。気配の消し方から察するに、そこそこの手練れのようですからご注意を」


周囲の様子をチラリとみて呟く私に、スイレイがそう答える。徐々に迫り来る殺気。それらは私達を包囲するようにじわりじわりと輪を狭めていた。それに反応して武器を構えると、連中の殺気が一気に膨れ上がる。来る! ――そう思った次の瞬間、王都全体が神聖魔法の光に包まれた。包囲を布いている連中に動揺が走ったのが手に取るように解る。そんな隙を見逃すはずも無く、私達は武器を構えて地を蹴った。さあ、戦いの始まりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る