第3話 謎の美少女

――カリン視点




私の名はカリン。数年前に家を飛び出してあちこちフラフラした挙げ句、最近やっと定住できる街を見つけた冒険者だ。冒険者と言ったら聞こえは良いけど、やってる事はただの便利屋だったりする。駆け出しの頃は悲惨だった。ギルドの信用がないから剣を使うような仕事は回して貰えず、与えられるのは子供の遊び相手や犬の散歩、引っ越しの手伝いや店番とか、誰でも出来るけど誰もやりたがらない仕事が多かった。そうやってギルドの信用を得て、最近ようやく実戦向きの仕事を貰えるようになった。




誰にも教えて貰った事は無いけど、体を動かすのが得意なので、誰かが戦っているのを見ているだけで剣の扱いを覚えることが出来た。そこからは速かった。スライムやゴブリンなどは単独で撃破できたし、強靱な肉体を誇るオーク相手でも負けなかった。収入はどんどん増えて懐も豊かになったから、私はたぶん調子に乗っていたんだと思う。ある日酒に酔った私は、挨拶を交わす程度の間柄にある冒険者の誘いを受けて、普段はやらない賭け事をやってみた。するとここでもついていて、私は元手をあっという間に何倍にも増やすことが出来た。




今考えたらそれが罠だったんだと思う。勝ったり負けたりを繰り返している内に収支がマイナスになって、それを取り返そうと一発勝負に打って出たら……見事に負けた。酔いなんか完全に覚め、青ざめる私にその冒険者は優しくこう言った。




「期限の一ヶ月だけ待ってやる。逃げようとしたらこの証文を見せて大陸中のギルドに知らせてもらうからな」




ギルドは冒険者同士のいざこざに介入したりはしないけど、登録している冒険者が罪などを犯した時は別だ。すぐに追っ手がかかり、ギルド自らが制裁を加えてくる。犯罪者――とは言わないまでも、証文付きの借金から逃げている冒険者をギルドが見逃してくれるとも思えない。それにギルドから追っ手がかかると言う事は、仕事を与えてくれる組織が無くなるって事だ。つまり収入が無くなる。返せるはずの無い借金。逃げても逃げなくても人生終了。




「どうしよう……どうすればいい?」




一人で必死になって考えてみたけど、いい手が全く思いつかない。普段から何かと交流のある冒険者達はどこかのクエストに出ているらしくて不在だし、担保も無しに金を貸してくれそうな伝手も無い。あいつらに好きにされるぐらいなら、いっその事死んでしまおうか――なんて考えたりしたけど、ギリギリの所で踏みとどまった。結局、一晩中考えに考えて出した結論は、冒険者本来の稼ぎで借金を返すと言う、何の捻りも無い結論だった。




「近場の魔物なんかいくら狩っても追いつかない。なら……強力な魔物からレアな素材をって帰らないと……」




いつも持ち歩いているボロボロになった地図をテーブルに広げてみる。それには今まで行った地域で取れる植物や出会った魔物の情報が書き込まれていた。私は見慣れた部分から意図的に目をそらし、地図の端の方に視線を移動させてみる。そこには下手くそな絵で羽の生えたトカゲの絵が描いてあり、その下に小さな文字でこう書かれていた。『ドラゴン』と。




ドラゴンを討伐――それは全冒険者の憧れと言っても良いと思う。ドラゴンの体は宝の山で、鱗の一枚や爪の欠片ですら高値で取り引きされる素材になる。おまけに討伐した冒険者はドラゴンスレイヤーの称号をギルドから与えられ、各種特典は勿論、上手くすれば貴重な戦力として国王に召し抱えられる事もあるらしい。




それだけにドラゴンはとんでもない強さで、熟練の冒険者パーティーがブレスの一吹きで何も出来ずに全滅するのも珍しくないんだとか。いくら私の頭が悪いからって、そんな魔物に単独で立ち向かうつもりはない。私が狙うのはドラゴンの巣か、その周辺だ。あいつ等も生物なんだから、古くなった鱗が生え替わったりするかも知れない。そう、私は戦って奪うのじゃなくて、落ちてるものを拾うつもりなのだ。




善は急げと、使い慣れた革袋にありったけの食料と水を詰め込み、私は大陸の端を目指して進み始めた。途中まで乗合馬車を使い、後は徒歩で進んでいく。魔物や盗賊を避けて人気のない道をひたすら進み、足が棒になっても頑張って歩き続け、ようやく二週間かけて目的の山へ辿り着いた。




持ってきた食料や水はとっくに無くなっていたけど、もともとが田舎育ちだし、山の中なら水場さえ見つければ自給自足ぐらい出来る――そんな考えが甘かったと思い知らされたのは、山に到着して半日も経たない頃だった。この山、とにかく普通じゃない。スライムのような見慣れた魔物ですら普段の何倍も強く、野生動物は今まで戦ってきた魔物より強かった。野ウサギの蹴りで悶絶するなんて初めての経験だよ……。勝てそうな動物も魔物もいないし、食べるものと言えば木の実ぐらいしかない。体力も気力もどんどん消耗して、ドラゴンの巣を見つける当てもない。お腹が空きすぎて歩くのも難しくなり、もうこのまま死ぬのかな――と思った時、なにか物凄く香ばしい匂いが鼻をくすぐった。




私は剣を杖代わりに使うと夢中になってその匂いの元へ急いだ。するとそこには、見たこともないような美少女が、巨大な猪の横で串焼き片手に優雅な食事を摂っていた。絶世の美少女と、魔物ですら蹴散らす巨大猪。そのあまりに現実離れした光景と空腹に目を回した私は、いつの間にか気を失っていたらしい。




次に気がつくと、私は知らない小屋の中で寝ていた。




「目が覚めた?」




心地良い声。反射的に身構えた私の目の前には、さっきの美少女が困ったような顔をして立っていた。どうやら私はこの娘に助けてもらったらしい。お腹を鳴らした私に少女は遠慮無く肉を振る舞ってくれた。数日ぶりにとるまともな食事は物凄く美味しくて、肉汁が口の中に溢れるのと同時に、私の目にも感激の涙が溢れていた。空腹が収まってくると、今まで疑問に思わなかった事に目が行く。この娘、こんな所で生活してるの?




自分で言うのもなんだけど、私は並の冒険者より強いと思う。一対一なら男の冒険者にだって勝てるつもりでいる。そんな私でもこの山に住む動物には手も足も出ない。なのに……この娘は自分で狩ったんだ。この巨大な猪を。一体何者……と思いつつ肉をかじっていると、少女は指先に火をともし、肉を炙り始めた。魔法使い!? 私の知り合いにも魔法使いはいる。けど、無詠唱で魔法を使える人なんて見たことがない。魔法使いならこんな危険な場所でも生きていけるのか――そう納得しかけた私だったけど、また信じられない光景を見て自分の考えを即座に否定する事になった。




少女は私がまだお腹を空かせていると思って、追加の肉を床下から引っ張り出そうとした。それ自体に変なところはない。ないけど、その方法が普通じゃなかった。百キロはありそうな肉の塊。それをこの娘は筋肉なんかまるでついていないような細腕でむんずと掴み、無造作に引っ張り上げてしまった。思わず声が出そうになったのを何とか堪えて、私は必死で状況の整理をしようと頭を捻った。




この娘……色々と不自然なところが多すぎる。今見せた怪力や無詠唱の魔法といい、この一度見たら忘れられないような可愛さ。こんな娘が街中に住んでたら、きっとそれだけで噂になるに決まってる。ひょっとして魔物が人間に化けてる……? いやいや、流石にそれはないか。私を殺すつもりなら、騙すような回りくどい事をしないで、殴りつけた方が早いに決まってる。と言う事は人間。しかもかなり強い。助けてくれた事からして悪人じゃないみたいだ。




そこまで考えて、私はこれが天の助けだと思った。だってこんな危険な山奥で、魔物や動物を軽く蹴散らせるほど強い美少女に出会えるなんて、普通じゃ絶対無理だ。運命が私に味方している! そう思って事情を話し、助けを求めてみたら、少女は物凄く嫌そうな顔になった。あれ? 私の天使が悪魔みたいな顔してる。おかしいな。この娘なら絶対助けてくれるはずなのに。




それでも何とか頼み込んだら、天使は嫌々ながら引き受けてくれた。あからさまに面倒くさそうな態度に少し傷ついたけど、文句を言える立場でもないので黙っておいた。天使の名前はラピスという、外見同様可愛らしい名前だった。




夜が明けるとラピスちゃんは私を連れて外に出て、なぜか私の後ろに回ると腕を回してきた。こんな美少女に抱きしめられた経験が無いのでドキドキが止まらない。まいったな……私は普通の性癖だと思ってたけど、どうやら女の子もいけるみたいだ。などとふざけたことを考えている余裕はすぐに無くなった。なぜなら、私を抱えたラピスちゃんが物凄い早さで空に舞い上がったからだ。




「きゃあああああぁぁぁぁぁ!?」




自分の声が凄い速さで後ろに流れていく。飛んでる! 私、今、空を飛んでる!




「うるさいな~。ちょっと静かにしててくれる?」


「だっ、だってこれ! どうやって飛んでるの!?」


「はあ? 翼もないんだから、魔法以外に飛ぶ方法があるの?」




呆れたような声が耳をくすぐる。普段ならそれだけで悶絶してたかも知れないけど、今の私にその余裕は無い。魔法で飛ぶって、話に聞いたことはあるけど、実際に出来る人なんて見た事無い! やっぱりこの娘ただ者じゃなかった! とんでもない人に助っ人を頼んでしまったと少し後悔しかけたその時、私達の遙か前に、何かが飛んでいるのが見えた。あれは……ドラゴン!? 間違いない。資料でしか見た事の無い特徴的なシルエット。全身が緑色に輝く鱗。あれはドラゴンの中で一番弱いとされるグリーンドラゴンに違いない。そうこうしている内に遠くにいたドラゴンはすぐ近くまで近づいてきている。まさか、このまま空中戦でもやる気なの?




「ら、ラピスさん! どうするんですか!?」


「まず足を止める。君を抱えたままじゃ危ないから」




こっちに気がついたドラゴンが威嚇の咆哮を放ってきた。そう言えば資料にも書いてあった。ドラゴンの咆哮には魔力が籠もってて、意志の弱い者ならそれだけで死ぬか昏倒する時があるって。私は流石に死んだりしなかったけど、気絶しそうなぐらいの恐怖を感じていた。でも私を抱えたラピスちゃんは、そんな事お構いなしにドラゴンに接近したかと思うと、一息でその巨体の上に回り込み、勢いよく腕を振り下ろした。




「ゴアア!?」




瞬間、ラピスちゃんの腕から突風が吹き荒れる。それに巻き込まれたドラゴンはきりもみ状態で落下していき、物凄い勢いで地面に叩きつけられた。




「ちょっとそこで待ってて。あ、ついでにこれ借りるから」




地面に降りたラピスちゃんは私の腰から愛用の剣を抜き、まだもがいているドラゴンに向かって駆けだした――と思ったら一瞬でドラゴンの側に辿り着いていた。速すぎる! あれが人間の出せるスピードなの!?




「ガアアッ!」




怒りの咆哮を上げながら爪や尻尾を振り回すドラゴン。ラピスちゃんは石でも避けるように軽い足取りで攻撃を躱すと、ドラゴンの首目がけて手に持った剣を一閃させた。するとドラゴンの動きがピタリと止まり、次の瞬間、その巨大で重そうな首が地響きを立てながら地面に落下した。




「……え?」




剣を振って刃についた血糊を払いラピスちゃんは私に手招きする。腰が引けたヨチヨチ歩きで近づくと、ピクリとも動かない巨大なドラゴンの頭が、私の目の前に転がっていた。


一部始終をこの目で見ていたはずなのに現実感がない。私の剣はナマクラとは言わないけど、ドラゴンの首を一撃で切り落とせるような業物じゃないし、ラピスちゃんの細腕でそれが出来るとも思えない。なのに現実はこれだ。一体何者なのこの娘は?




「ほら。これで素材取り放題だろ?」


「え? ええ、はい。ソウデスネ……」




まだ頭が上手く働いていないからカタコトになってる。私は返してもらった剣を鞘に戻すと、採取用の短剣を腰から引き抜いてドラゴンの死体によじ登った。ドラゴンの体はとても硬く、鱗を一枚剥がすだけでも重労働だ。初めて手に持った鱗は鋼のように頑丈で、木の板よりも軽い。これで鎧や盾を作ったら生半可な攻撃は簡単に弾いてくれると思う。




「そりゃ高値で取り引きされるはずだよね……」




ドラゴンの体はどれも高級な素材として扱われる。その中でも心臓や血液、目玉は特に高級品だ。心臓を食べればどんな病でも完治するし、血液は滋養強壮の薬になるし、目玉は遠見の水晶に使われる。でもどれもこれもサイズが大きすぎるので、私が持って帰れる範囲を超えていた。でも良いんだ。鱗が一枚手に入っただけでも借金は返せるし、これを十枚も持って帰る事が出来るんだから、大儲けと言って良い。袋に詰め込めるだけ詰め込んでドラゴンの死体から飛び降りると、ラピスちゃんにペコリと頭を下げた。




「ありがとうございました! これで借金は返せます! これも全部ラピスさんのおかげです!」


「……もう良いの? まだ貴重な素材が残ってるみたいだけど」




そう言ってラピスちゃんは横に転がっているドラゴンの死体を見上げる。心臓や目玉がそのままだから、それの事を言ってるんだろう。




「本当は持って帰りたいんですけど、重くて運べそうもないですから」


「そうか。ところで、そんなに詰め込むと帰りの食料が持てなくなるんじゃない?」


「あっ」




そこまで考えてなかった。よく考えたら行きもこの袋一杯に食料と水を詰め込んでギリギリだったっけ。まいったな……これじゃ帰れないよ。涙目で困ってる私を見かねたのか、ラピスちゃんはため息を吐きながらさっきと同じように私の体に腕を回してくる。




「ラピスさん?」


「街の近くまで送ってあげるよ。それなら素材だけ持って帰れるし」




そう言って、ラピスちゃんはさっきよりも速いスピードで飛び始めた。二度目と言う事もあって恐怖心が少し薄れていた私は、足下を凄い速さで流れていく景色を眺める余裕があった。歩きなら何日もかかる道のりでも、空を飛べば一瞬だ。あの山も、あの川も、乗り越えるのにどれだけ苦労したかわからない。




「凄い……!」




この感動は実際に空を飛んでみないと絶対わからないと思う。こんな貴重な体験、王様だって、貴族だって出来ないはずだ。そんな楽しい空の旅も終わりの時が来た。私の出発した街がすぐそこに見えてきたからだ。私が街を指さすと、するとラピスちゃんはどんどん高度を下げていき、街から少し離れた位置で私を下ろしてくれた。




「ここからなら、一時間も歩けば街に到着するはずだ」


「あ、ありがとうございました! 本当に、なんてお礼を言って良いのか……」


「気にしなくていい。ただの気まぐれだし。じゃあ、俺は帰るから」




返事も待たずにラピスちゃんは空へ舞い上がっていく。私は焦りながらそんな彼女に声を上げた。




「このお礼は必ずします! また会いに行きますから!」




大声で言いながら手を振る私に、ラピスちゃんは手を振り返しながら空の彼方に消えてしまった。あっという間にいなくなって、まるで夢か幻でも見ていた気分だ。でも背中に背負った袋の中の、ドラゴンの鱗が現実だと教えてくれる。私はラピスちゃんが消えた空に頭を下げて革袋を背負い直すと、街に向かって歩き始めた。




§ § §




「聞いたよ。あんたドラゴンの鱗を手に入れたんだって?」




街に戻った私は、早速冒険者ギルドでドラゴンの鱗を買い取ってもらうと、その足で金を借りている冒険者の元まで行って、証文と引き換えに借金を返してきた。かなり悔しそうにしてたのが気持ちよかったな。




少し懐が豊かになった私は、定宿にしてる安い宿屋の一階で、一人だけのささやかな祝宴を上げていた。と言っても酒は飲んでない。流石に今回の事で懲りたから、当分は禁酒するつもりなんだ。その代わり普段食べない値の張る料理を次々に注文して、その美味しさに一人もだえていた。そんな時、私の対面に断りもなく座ったのは時々パーティーを組んでクエストをこなしている冒険者仲間のシエルだ。貴重な魔法使いの彼女はいつも何処かのパーティーに誘われていて、今回も臨時のパーティーに助っ人で参加していたらしい。そんなシエルは何処かで私の話を聞いていたらしく、給仕に酒を注文しながら身を乗り出してくる。




「一体何処でそんな話を聞いたのよ? 私、誰にも言ってないんだけど」


「そんな情報、黙ってたって出回るわよ。こんな小さい街なんだから、珍しい素材が手には入ったらあちこちから問い合わせがあるだろうしね」




そんなものなのかなと頭を捻る。武器屋に防具屋、それから鍛冶屋、他にもあるだろうけど、私が思いつくだけでもこれだけの店がドラゴンの鱗を欲しがると思う。一回でも手には入ったら当然追加で注文したがるだろうし。秘密にしようとしても無理があったね。




「で、何処で手に入れたのよ? 私には教えてくれるんでしょ?」


「…………」




シエルには何度も危ないところを助けてもらっているし、それが無くても貴重な同世代の冒険者仲間なのだから、邪険にはしたくない。でもこんな話、信じてくれるのかな?




「何? 私にも言えないの?」


「そうじゃないけど……。わかった、話すよ。誓って言うけど、これ作り話じゃないからね」




そう断ってから私は話し始めた。自分が何処の山で死にかけて、誰に助けてもらったのかを。最初は胡散臭そうに聞いていたシエルだったけど、話を聞いていく内に真顔になり、最後は難しい顔になっていた。




「――ってわけで、私はラピスちゃんにここまで運んでもらったのよ。嘘じゃないわよ?」


「ああ……うん。別に疑ってるわけじゃないんだけどね。飛行の魔法に、ドラゴンの首を一撃で落とす腕前の、男言葉の美少女? それ本当に人間なの?」


「私も疑ったんだけど、本人は人間だって言ってたよ。それに、魔物なら私を助けてここまで運んだりしないでしょ?」


「それはそうだけど……」




シエルもいまいち信じ切れないみたいだ。実際体験した私だって、ラピスちゃんが非常識な存在だってのはわかる。話に聞いただけのシエルが疑うのも無理はない。しばらく難しい顔をしていたシエルは、やがて何かを思いついたように顔を上げた。




「ねえ、その人のところにもう一度行く気は無い? 私、どうしても飛行の魔法を手に入れたいのよ! 私だけじゃ断られるかも知れないから、カリンも着いて来て! お願い!」


「えぇ!?」




せっかく帰ってきたところなのに、またあの危険な山に出向くの? 正直言うと遠慮したいんだけど、いつもふてぶてしい態度のシエルが珍しく頭を下げているし、私もラピスちゃんにはちゃんとお礼をしたいと思ってる。しょうがない。いつも助けてる恩返しもしたいし、シエルの魔法があるなら、あの山でも何とかなりそうだしね。




「わかったよ。じゃあ一緒に行く。でも魔法を教えてくれるかどうかはわからないよ?」


「それは自分で交渉するわ! ありがとカリン! やっぱり持つべきものは友達よね!」




途端に機嫌が良くなったシエルに苦笑しながら、私はどんなお土産がラピスちゃんに喜んで貰えるのか、頭の中でシミュレーションし始めた。

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