わたし は だあれ?


 わたしはハロウィーンが大好きだ。

 街を歩くありとあらゆるものが“この世ならざるもの”に変わる。

 平凡な日常が非凡な非日常へと変わっていくその瞬間が、なによりも好きだった。



 街灯がカボチャのランタンに変わり、冴えないサラリーマンがスーツを破って狼男に変身する。

 子育てに疲れた主婦が杖を一振りすると、一人娘は血塗れ王姫シンデレラに早変わり。

 十二時で消えてしまうガラスの靴の代わりには、同級生の吸血鬼を携えて。

 解けない魔法。明日の来ない週末の夜ハロウィーンは、今日もあの日と同じ様に、ぐるぐるぐるぐる回ってる。





 ――あら、狼男さん。月夜ばかりと思わないで、太陽に向かって吠えてみたら? そうしたら小言の煩い上司も、少しはアナタを見直すかもね?





 ――アナタには、魔法の杖なんて必要なかったみたい。子供を生んで、育てる。それこそ……もはや魔法でしょう?。





 ――真紅に染まったシンデレラ。


 アナタは誰より美しいわ。


 その頬を青の薔薇で飾り付け、赤い靴を鳴らしましょう。


 リズムに乗ってアン・ドゥ・トロワ。


 直ぐに誰もが頭を垂れて、どうか私もその一滴に……なんて、キザな吸血鬼が現れそうよ





 ――噂をすれば、ほら。

 太陽の下では歩けない、小さな小さな隣人さん。


 いつものように、キィキィ鳴いてご覧なさいな。


 わかっているわ、綺麗なあの子の前ではキザな吸血鬼で居ないとね。


 わたしなんかの鮮血よりも、あの子の残り香のほうがよっぽどクラクラするんでしょう? さぁ、いっておいで。


 くれぐれも、首筋に噛み付いたりなんてしないように





 ――……。





 ……アナタは、始めましてのお客様? 


 どうやらアナタもハロウィーンが大好きみたいね。


 ええ! 顔を見ればそんなことはすぐわかります。


 心配しないで。ここには悪戯をしない子供なんて居ないわ。


 怒られることなんて無いんだから。


 落ち着いて、ゆっくりと息を吸うの。


 アナタを叱る無粋なママも、気付きもしない野暮なパパはもう居ない。


 アナタは自由、自由なのよ。


 好きなだけ空を飛ぶ空想をして、ベッドから剥いだシーツを被り、ご近所さんにお菓子をねだり歩いたって誰も責めはしないわ。


 



『今日は楽しい楽しい永遠に続く週末の日曜日ハロウィーン・ナイト!』



 さぁ? 終わらない夜ハロウィーンを始めましょう?

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