エピローグ

エピローグ

 勇人が朝に目を覚まし、スマートフォンのアラームを止めるついでに通知を見てみると、ニュースアプリがあるニュースの続報を伝えていた。

『夜空の謎の現象、未だ解明できず』

 あの決戦の夜から数週間後。学校はついに夏休みを明日に控え、今日は終業式が行われる予定だ。

 各報道番組やニュースサイトが挙ってゲルギオスが引き起こした現象を報じていたが、当然核心に触れることはできていなかった。あの夜に起きたことを知っているのは、ふたり以外ではエレナぐらいだろう。あともう少し時間が経てば、あの戦いも未解決の事象として取り扱われるのだろうか。むしろ、そのほうがいい。それが平和というものだ。

 勇人が身支度を調えて一階に下りると、テレビが付けっぱなしてあり、食卓に両親が作った朝ご飯が置かれていた。冷めないようにラップが掛けてある。

 朝ご飯を食べつつ、なんととなくテレビの音声に耳を傾けていると、再びスマートフォンが震えた。見ると、さきほどのニュースアプリが違うニュースの続報を通知していた。

『未知の睡眠障害、回復の兆し』

 それを見て勇人は破顔する。きっと今頃ソフィアの友人も目を覚ましているのだろう。

 通学の時間になり、勇人は戸締まりを確かめて外に出る。夏の刺すような日差しが降り注ぐ。今日も暑くなりそうだ。

 今日もこの世界は今までと変わりなく回っているのだ。


「やっと明日から夏休みね」

 終業式を終えたあと、勇人はソフィアと待ち合わせていた。

「そうだな。けど、その前に友達の見舞いには行ったのか?」

「もちろんよ。というか、朝一で行ってきたわ。終業式には出られなかったけど、近いうちに退院できるみたい。そうしたら、また遊ぶ約束をしたわ」

 いつもよりも嬉しそうに笑うソフィア。きっと今まで気が気でなかっただけに、その安堵と嬉しさは格別だろう。

「……ねぇ、勇人」

 少し声のトーンを落としてソフィアが問いかけてくる。

「どうした?」

「以前、あたしがどちらの世界にいるべきか分からないって言ってたこと覚えてる?」

 勇人はうなずく。そういえば、もう少し考えたいと言ったきりその答えを聞いていなかった。

「結論は出たのか?」

 ソフィアはそこで小さく深呼吸をする。

「あたしにはアルカディアの記憶も能力もある。かつて魔族を統率していた魔王でもある。その事実は消えないし、きっとこれから先も背負っていかないといけないことだと思う。でも、あたしが今いて、目で見て、耳で聞いて、身体で感じているのは、あたしが今生きているのは――この世界なの。あたしがこの世界にいる意味がきっとある。それを探したい」

 見上げる蒼穹は澄み渡り、夏の日差しが燦々と輝く。

「それがソフィアの答えなんだな」

「ええ。もちろん、元の世界に帰ろうと思っている勇人の邪魔をするつもりはない。だから、勇人とはここで――」

 別れようと思う、そうソフィアが言いかけたとき。

「なら、俺ももう少しいるかな」

「え?」

「聞いてなかったか? 俺もまだこの世界にいようと思う」

「いや、そうじゃなくて。……本当にいいの?」

 驚いた様子でソフィアがまじまじと勇人を見つめる。

「そんな驚かなくても。そもそも、まだ戻るための手段どころか、手掛かりさえも見つけてないしな。それに約束したからな、一緒にこの世界を守ろうって。少なくともこの世界の安全が確保できるまではいるよ」

 一瞬の沈黙のあと、ソフィアはおかしいと言わんばかりに笑いを零した。

「やっぱりにあんたは根っからの勇者気質なのね」

「そんなに笑わなくてもいいだろ」

「おかしくてついね。でも、そういうことならこれからよろしくね、勇者様」

「こちらこそお手柔らかに頼むよ、魔王様」

 差し出されたソフィアの手を勇人が握り返そうとすると、

「愛しの女帝様ぁ! 先日の戦いの疲れを私が癒やして差し上げ……って、なにしてくれとんじゃわれぇえええ!?」

 凄まじい勢いでエレナが駆け付けて、膝を勇人の顔面にぶち当てようとして、それをぎりぎりで回避する。

「危ねぇだろ! 天下の往来でなにすんだ!」

「それは腐れ勇者が汚れた手で女帝様のお手を触ろうとしたからだ」

「やっぱり、ふたりはいいコンビよね」

「良くない!」

 三人の賑やかな声が青空に響く夏の午後。

「そういえば、今日は予約してたゲームソフトの発売日だったわ。早く買いに行くわよ、ふたりとも!」

「女帝様と一緒ならどこへでも!」

「やっぱりお前、ただ遊びたいだけなんじゃ……」

「そ、そんなことないわよ。さあ早く行くわよ!」

 勇者と魔王の現代転生(リスタート)はきっとここから、始まっていくのだ。

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勇者と魔王の現代転生(リスタート) moai @moai

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