第4話

 線路沿いの道は頻繁に電車という乗り物が行き交い、そのたびに空気を揺らす。乗っている人々は様々でそれぞれにそれぞれの人生があるのだろう。

 この世界で住むことになった家はかなり裕福なようで、高層マンションの高層階を住まいとして持っている。だからというわけではないだろうが、両親は自分が欲しいと思った物はお願いすれば例外なく買ってくれる優しい両親だった。つまるところ、現在は不自由は一切ない生活をしている。

「元の世界……か」

 ソフィアも元の世界に戻りたいだろうしな――そう勇人に言われたときの自分はいったいどんな顔をしていたのだろうか。

「あたしは……」

 返答に一瞬だけ間を空けてしまったのは、勇人の目にどう映ったのだろう。勇人も自分も間違いなくアルカディアの住人だ。記憶やこの強すぎる能力がそれを証明している。きっと戻らねばならないのだろう。記憶や能力を持たない人はともかく、少なくとも能力持ちの自分がいれば、きっといつか大きな災いを招き寄せてしまう。

 だが、それを拒む思いが心の片隅にあるのも事実だった。やっと年相応になれる。それが今はとても心地よいのだ。常につきまとう戦火からやっと逃れることができた。勇人と再会したときは嬉しさのあまり戦いを挑んでしまったが、裏を返せば自分から挑みでもしない限り、この世界で戦う必要は一切ない。

 ずっとずっと望んでいた平和な日々が手の届くところにある。

「もう少しだけ……いいよね?」

 誰かに問うようにつぶやくが、当然誰も答えることはない。

 気が付けば、自宅に着いていた。きっと両親ももう帰ってきているだろう。帰りが遅くなったことを咎められるだろうか。それすらも今のソフィアにとってはかけがえのないものになっていた。

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