第27話三人でいる幸せ
細い一本道を急ぎ足で進み、道が分かれた先に、スフレが通路の影から何かを見つめていた。
「やっと見つけた。迷ったらどうするんだよ」
少し息を荒げる俺とシュゼ。
「あ、やっと来た。あそこにね、怪しいのがいるのよ。……てゆうか、あなたたちいつの間にそんなに仲良くなったの? 私がいない間、二人で何やっていたの?」
スフレに言われ、何のことかとシュゼをみると、俺の腕を掴み、身をひっしりと寄せていた。スフレに言われ、気付いていなかったのか、あわてて離れるシュゼ。
「で、なんだよ。その怪しいやつって」
「あれ」スフレに習い、俺も影から覗く。ゲームなどでは、王道と言われるようなゴブリンが数匹、机を囲み、何か会話らしきものを執り行っていた。
「私、あの顔がどうにも受け入れられないんですけど」
「奇遇だな。俺もだ」
シュゼから言われたのが意識に働いたのか、スフレとの意見の合致が珍しく違和感を覚える。
「てか、あのゴブリンが囲んでる机の上にあるやつ、あれ、指輪じゃないか?」
「確かに言われてみてば、そう思えなくはないわね」
「やるか」「やっちゃいましょ」
影から身を引き、シュゼに戦闘に備えて準備を促す。
「ほ、本当にやるのですか……?」
「やらなきゃやられる可能性だってあるし、折角ここまで来たんだしな」
スフレから貰った例のお守りを確認し、いざ出陣!
ゴブリンの数は四匹。飛び出した俺に気付き、ダガーを構える者、盾を構える者、杖を構える者。どうやら、ゴブリンにも役職や陣形というものがあるらしい。これは厄介な敵かもしれない。
力を込めて剣を振るう。シュゼのおかげで見た目以上に軽くなった剣は、なぞるように弧を描く。しかし、日ごろの運動不足の影響か、いくら軽くとも敵には当たらず、空振る。
二、三度空振りをかますと、後ろからケタケタ笑う声が聞こえてくる。
あんにゃろう!
赤っ恥を食らい、赤裸々に頼み込む。
「スフレ! さっさとこの状況をどうにかしてくれぇ! もう、腕吊りそう……」
「仕方ないわねぇ!」
待ってました! と言わんばかりに声色を変える
とりあえず、一旦陣形を変え、スフレとシュゼが前へ出る。
ナイト様がお姫様二人に助けられるなんて、情けない。ま。そんなことは置いておいて。スフレとシュゼが魔法を使うと合図してくる。
ちなみに、相手のターンとかはないらしく、攻撃できるうちに畳みかけたい。
二人は、バレーの時と同じく、スフレは蝶を羽ばたかせ、シュゼはぶつぶつと 唱えている。そして、スフレの身から離れた蝶は、ゴブリンの辺りを飛び回り――光を放つ。
強い光に当てられたゴブリンたちに、何かを唱え終わったシュゼの魔術が襲う。
空気が裂けるような轟音が、ゴブリンの聴覚器官へのダメージとなり、先のスフレの閃光による視覚機能の低下で、三半規管を麻痺させた。
よって、バタバタと倒れていくゴブリン。
魔術の事はよく解からないが、おそらくあの時と同じ加速系統のものだろう。
空気中にあるチリや小石を音速まで加速させ、衝撃波を生んだのだろうか。
相手が倒れたことを確認し、ハイタッチ。
結局、ゲームの世界だろうが魔法と魔術で完封してしまい、台無しとも思えるが、助けられたのは事実だ。
一応起きないようにこっそりと戦利品を漁っていたが、不器用なのか大雑把なのか、うちのお姫様のお一人は手荒かったり、いろいろ文句を付けたりしていたが、もう、気にしない。
そんな事より、早く帰りたい。
Ж Ж Ж
「これって本当にガラスで出来ているのかしら」
帰り道、奪った戦利品と今回のクエストの目標である指輪を、スフレは品定めしていた。
「なんか印とかないのか? 刻印とか」
んーとしばらく考え込んでいたスフレが、何かを見つけたのか歓喜の声を上げた。
「ともき! これ見て!」
そうやってスフレは、指輪を三つ合わせ傾く夕暮れに翳した。
――すると。
【この空が続く限り、私たちの幸せが人々に届きますように】
三人して微笑む。お互いの顔が合うが、気恥ずかしさなんてちっとも思わない。きっとこの指輪の持ち主も、三人でいるのが最高に楽しくて、幸せだったのかもしれない。
するとスフレは、指輪に何かを願うように両手で包み、胸に当てた。
子供のように手を握り、ぎゅっと優しく願っていた。
「なにしてんだ?」
「ないしょっ!」
スフレは満面の笑みを向ける。シュゼは優しく微笑む。
明るい声が木霊する。この空に。それを優しく色づいた世界が包み込む。
ああ、今、幸せかもしれない。
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