003  ゲームの世界と現実の世界は一緒だⅢ

「え? 何? 依頼料? 知らねぇーな。そんなの……。ただ俺の懐には茶封筒ぐらいしかないものでね。後は何にも持ってないよ。それじゃ……」

 男は自分の懐から茶封筒を少年に見せながらそのまま去っていく。

「待て、待て‼ それぇええ‼ 僕が探しているの、それですから‼ 何、人の物をネコババしようとしているんですか⁉ おかしいですよね? ……って、返してくださいよ‼」

「え? これ君のだったの? てっきり、サンタさんからのプレゼントだと思ったよ。でも、助けてもらった奴にお礼ぐらいはしてくれてもいいんじゃないの? 例えば、これの半分でどうよ」

 男は手で封筒を投げながら頭を掻く。

 さっきの悪人よりももっと質の悪い人間に捕まってしまった少年は、はぁ、とため息をつきながら地べたに手をついた。

 そして、立ち上がると、

「ふざけないでくださいよ‼ それ、僕にとっては生きていく中での大切なお金なんですよ‼ この世界に閉じ込められてからは毎日、毎日必死で生死をさ迷っているんですから!」

「あのなぁ? それくらいでいちいち細かい事を言うんじゃない。分かってる? 宝くじだって、競馬だって、パチンコだってやらないと当たりません‼ でもな、当たった時の想像をしてみろ‼ そう言う人生だからこそ、デンジャラスな生活ができるんじゃないか」

「いや、それとこれとは関係ねぇーよ‼ ここはゲームの世界! やるならカジノでしょうが‼ それにあんたに金を渡したらすぐに使い切ってしまうタイプだな!」

 少年は男と空き地の前で言い合いになりながら取っ組み合いになる。

 顔をつまんだり、腕の引っ張り合いをしながら喧嘩する。すると、そこに誰かが二人の前に現れた。

「あらあら、けいちゃん。久々ね。元気にしていた?」

「あ、真理まり姉。やっとクエストを完了したところで帰ろうとしていたところです。それで真理姉は、何をしているんですか?」

 圭ちゃんと呼ばれた。この物語の準主人公(モブキャラ)である桜庭圭介さくらばけいすけは、同じギルドの姉弟子である準ヒロイン弓削真理ゆげまりと一週間ぶりに再会をした。

「ねぇ、圭ちゃんの質問に答える前に私が準ヒロインってどういうことなの? この作者、本当になめきっているわね。今すぐにでも殺しに行っていいかしら?」

「やめてください。一応、これでも原作者なんですよ! 僕なんか(モブキャラ)って書かれているんですから……。真理姉の方がまだマシですよ」

 突然現れた弓削真理は、短いスカート姿に上半身は着物を着ている。腰には剣ぐらいの長さのランスを装備していた。足元は長い黒い靴下に動きやすい靴。顔立ちはまあ、この年にしては美人である。

 一方、桜庭圭介は、地味の地味である。

「で、そこの人は誰? 圭ちゃんのパーティー仲間には見えないわね……」

「俺はただ、この辺に住んでいる一般市民でーす。これに道を訊かれておしえていただけでーす」

 男はとぼけたような感じで真理に言い、話を逸らそうとしていた。

 この真理という女を相手にしていたら命がないと確信していた。

「こいつですか? 泥棒どろぼうです」


       ×       ×       ×


 弓削家————

 この家は現在の東京をモデルとした場所にある東京の下町の浅草に位置している。家は普通のぼろい一軒家であり、税金とか固定資産とか取られる心配がない。

「で、こんな所に二人で過ごしているのか? キャラで見るとこっちの男は使えなくてもあんたはどこかのギルドに入っていてもおかしくないだろう」

「あら、あなたに言われたくないわよ。これでも昔はギルドの副を任せられたほどよ‼ 今だったらあなただって痛めつけてこの世から消えさて上げましょうか?」

 お茶を出された男は、湯飲みを右手でつかむとちょびちょびと飲みだす。

 向かい側に座っている圭介と真理は、その男をまだ許しているつもりはなかった。ネコババをされそうなところを家に呼び、こうして向かい合って話しているのだ。

「それに五年前は向こうの世界で結構いい暮らしをしていたものよ。なのに、この世界に閉じ込められて五年。まともな生活もできず、クエストの依頼も激減。プレイ時代に稼いでいたお金もほぼ空になっていく状態。でもね、逆に言えばこの生活も嫌ではなくなってきているの。お金も納めなくていいし、テレビもあるし、食べ物もたくさんある」

 真理は懐かしそうに昔の思い出に浸っていた。

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