002  ゲームの世界と現実の世界は一緒だⅡ

 倒された仲間を支えながらもう一人の剣を持った男が、叫んだ。

「貴様、このお方を誰だと思っている‼ 貴族様だぞ!」

 だが、剣を持った甚平じんべい服の男は何も動揺の一つすらしなかった。

「あのなぁ。それならそれで、マナーというものを守れよな。こっちはいい気分で寝ていたんだぞ!」

 甚平男は、イライラしながら自分の腹を掻く。

「それで、これ見てみろよ……俺の腕の一部が青くなっているだろ? これどういう事だか分るよな? 要するにお前らのせいで腕を怪我したんだろうがぁあああああ‼」

 男は自分の左腕を使って、拳を握ると、倒れている男に殴りかかる。

 何度も痛めつけて、ニカ、と笑いながら残りの二人に近寄っていく。

「と、止まれ! 分かった。分かったからぁあああああ‼ 俺達が悪かった!」

「そんなのどうでもいいよ。ただ……ただ……この痣が治るのに物凄い時間がかかるんだぞ‼」

 男は剣を上に放り投げると、両腕で二人の首を思いっきりラリアットを喰らわす。首を狙えば、誰でも一時的に呼吸困難に陥る。

 そして、事が終わった後には三人の男たちが地面で死んだ魚のように痙攣を起こしながらぐったりと倒れていた。

 助けられた少年は思った。

 目の前に立っている男の姿が眩しいほどに輝いて見えた。圧倒的な強さを持っており、誰も近寄らせないそのオーラがいつの間にか憧れへと変わっていった。

「……ったく、もう少し遊び相手になるとでも思ったのによぉ」

 男は落ちてきた剣を腰に直すと、ギルド本部から出て行った。

 周りの人間が騒ぎ、どんどん人が集まってくる。

 その中で男は注目を浴びずに人ごみに紛れながら消えていく。

「おい、誰だよ。こんなに暴れたの……。ああ、こりゃあ、憲兵隊けんぺいたいが出動してくるな。おお、もう来やがったぞ‼」

 野次馬のモブ達が、わんさかと騒いでいる。

「あの……。前の行に突っ込みたいんですけど、モブって、まさか僕も入っていませんよね。ねぇ‼ 原作者‼ そこん所はっきりとしろや!」

 と、うるさいモブは置いといて、話を進める。

「ツッコミを入れているところ申し訳ないが、あんた、ここで暴れた人間を知らないか?」

「いや、知りません。と、言うよりかも聞きたくもありません‼」

「そうか、これは冒険者から貴族に成り上がったボンボンの野郎だからな。ちょっと面倒なんだよ。スカッとしたけど……」

 憲兵隊の連中が捜査をしている間に少年は、あの男を人ごみの中から探した。どこを探しても同じような人間ばかり、だが、探し求めていた人間はとっくに人ごみをくぐって、大通りをゆっくりと歩いていた。

「ああ、やっちゃったよ……。それにしてもこの世界に閉じ込められてから毎日が暇だな……。ああ、寝みぃ……。家にでも帰るか」

「あ、ちょっと‼」

 甚平男の肩を掴み、声をかける。

「あんたのおかげで助かったよ、と言いたいところだけど依頼量の半分をどこかで無くしたんだが知らないか?」

 少年は、男を振り返させる。

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