ソード・ファンタジー・コメディ

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ

第1章  ゲームの世界と現実の世界は一緒だ

001  ゲームの世界と現実の世界は一緒だⅠ

 男は剣を持ち、天井てんじょうに向けて掲げた。

「剣は人殺しの道具ではない。自分を守り、仲間を守るものだ。この世界では誰もが自分と戦い、血を流してきたが、時代が経つにつれてこの世界の人間は変わっていった」

 息が荒く、呼吸が少しずつ小さくなっていく。

「だが、忘れるな。どこの世界にいても人は生きている。たとえ、この世界が終ろうとしてもお前たちの人生は続いていく……。はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「師匠!」

 男の隣で彼を見守っていた男女の二人は、叫びながら体を揺らす。

「ああ、一つ願いが叶うならもう一度だけ、あの世界に戻りたい。空気も自然も綺麗なあの世界に……」


       ×       ×       ×


『アンダーワールド』————誰もが一度はプレイをしたことあるVRMMORPG。

 世界中から人気を集め、プレイヤーは五億人ほどまで上った。そして、舞台は日本。高クオリティーに再現されたこの世界は、現実世界と全く変わらない青空が広がっていた。だが、五年前、突如閉じ込められたプレイヤーはこの世界で生きる運命を定められた。

 肉体もこちらに転送させられ、現実世界からすべての人から彼らの記憶は消された。


「だーかーら。依頼時間の約束を大幅に遅れて、依頼量をそのままにしろって⁉ 馬鹿じゃねーか‼」

 男は目の前の少年に向かって怒鳴り散らしていた。

「ねぇ、分かる? 普通は依頼主が定めた時間内に持ってくるのが受けた人間の約束だろ? 破ったならそれも半分になるわけだ‼ 普通、人間なら約束は守れと母ちゃんに言われなかったか‼」

「は、はぁ……。すみません。少し道に迷ってしまってギルドの場所が分からなくてですね」

 少年は頭を掻きながらすまなさそうに軽く頭を下げる。背中に背負っている剣は誰もが持っている耐久力のある普通の剣である。

「ふざけんじゃねぇーよ‼ そんな言い訳が通用するとでも思っているのかぁ‼」

 依頼人の男が少年の頬を思いっきり右手でビンタを喰らわす。

「ぐはっ‼」

 少年はよろけて近くのテーブルに倒れる。

「でも、これはペナルティーだ。報酬の半分は受け取れよ! ほれ、受け取れ貧乏人‼ まあ、これでも生きていけるだろ?」

 男は叫び、笑いながら少年を見下ろす。

 ギルド内で恥ずかしめられた少年は、悔しそうに地面を見る。

「おいおい。いくら何でもやりすぎだって……。その少年だってこの世界で生き抜いているんだ。その辺にしといてやれよ!」

 近くで見ていた大柄おおがらの仲間の男たちがそのやり取りを見ながら面白そうに笑っていた。自分たちは、昼間から酒を飲み、宴会をしている。

「ああ、分かっている。でも、これくらいきつく言っておかないと、ダメだろ?」

「いやいや、それくらいの剣士はいくらでもいるし、弱そうなやつを相手にしていたら俺達までもが馬鹿になってしまうだろ? 元々、冒険者は貧乏人ばかりでこの世界に閉じ込められてしまったら平気で人を殺す世の中だからな」

 大柄の男は、酒を少年に向けて頭からぶっかける。

「だから、こういうのがいるからホームレスが増えていくんだよ!」

 男は少年の頭を鷲掴みにすると、左右に揺らしながら隣のテーブルに向って放り投げる。

「ごみは掃除した。さっさとこの建物から出ようぜ‼」

 三人組の男たちは立ち上がると、ギルドの建物から外に出ようとした。

 五年前までは誰もが楽しめる世界のゲームだった。なのに、人は変わっていき、現実世界リアルの暴力団と変わらない連中もいる。金を持っていると、地位が高くて、持っていないと普通の庶民と変わらない。剣を握ったとしてもここで戦えば絶対に負ける。

「次からは約束は守ることだな」

 依頼人の男が、振り返ると悪そうな表情で倒れている少年にそう言った。

 こんなの理不尽だ。不公平だ。本当に生きていると感じない。

 だが、たった一人、両者の間に入ってくる一人の男がいた。

「お前ら、いちいちうるせぇんだよ……」

 黒髪のさっぱりとした髪。さすがに冒険者と思わない甚平じんべい服の姿の男がいた。

「ああ?」

 外を出て行こうとした三人のうちの一人の男が、謎の男に近づいていく。そして、殴りかかろうとすると、それを交わして、腰に付けていた刀をみねで腹を切る。

「ぐはっ‼」

 男は二人の方に飛んでいき、床を転がっていく。

「ぎゃあ‼ あ、危ねぇーだろう‼ 俺達を誰だと思っているんだ‼」

 一撃があまりにも早すぎて剣筋が視えなかった。

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