第31話 コレクター
犬塚はさっそくブラウザーを立ち上げ、キュアチェリーの人形を調べ始めた。検索はすぐにヒットし、専用WEBページに到着。そこには細かい仕様が記されている。
やはりな、と犬塚は思った。最初に作品概要ページや掲示板を渡り歩くことにする。
キュアチェリーはブリキュアシリーズの中でも最新のシリーズの主人公で、同作は屈指の名作と名高いらしい。戦隊モノよろしく、花をモチーフにしたカラーテーマに則った仲間が数人いて、それぞれキュアローズ、キュアダンデリオンがいる。キュアローズの色が青で、ブルーローズを揶揄しているあたりが中々に深い。フィーチャーされるストーリーも、不可能とされていた夢を叶えるという流れが、花言葉になぞられているなど、思わず唸らずにはいられなかった。
続いて商品ラインナップに目を移した。それぞれ花がモチーフの意匠が凝らしてあり、一つとして同じパーツは無い。ボディの仕様はキャラクター同士で共通化されているため、他のキャラクターの衣装を着せたり、組み合わせたりすることが出来るようだった。
「なるほどな。となると」
犬塚は商品関連ページに飛ぶ。そこには犬塚の読みどおりの商品が並んでいた。追加の衣装セットである。
物語が後半に差し掛かると、彼女達の変身はグレードアップする。その時の衣装が別売りで追加販売されているのだ。また学生生活時の衣装などもある。
犬塚は顎に手をあてて感心した。商品としての展開がちゃんと考えられている。
複数体買えば着回しを楽しめるし、追加の服だって売っているから、買い足せばまた違う気持ちで接することができる。さらに、ボディサイズは三世代前から変わっていないので、過去シリーズの衣装を着せることもできたりと、とにかく徹底的にコレクター魂をくすぐる仕様になっているのだ。
だから、リピート率が高い。最初の一体を買わせてしまえば、その次を買う確率がべらぼうに高い。ボディは共用だから、本体は実質髪型と表情の調整だけで済み、衣装は作り込んでも追加販売ができたりと無駄にならない。開発費がかさまないから、商品の展開力と縫製の質に全振りでき、それでもじゃぶじゃぶの利益がでる。
一体2000円だとして、替えの衣装が1000円。セットで3000円を毎月買ったとするなら、携帯電話料金レベルの回収率となる。マージンを差し引いたとしても、十分にビッグビジネスだ。
玩具ビジネスを甘く見ていたことを痛感する。
今度は會田玩具のページに飛んだ。
會田玩具は會田商事の子会社だが、玩具メーカーとしてはかなりの規模で展開されている。自社ブランドの利益モデルでその存在を誇示している訳だが、犬塚が知りたいのはそこでは無かった。そしてこれもやはり、その情報がそこには無い。それはある意味で、犬塚の期待した通りだった。
「なるほどな」
犬塚は不敵な笑みを浮かべた。ビジネスに生きた犬塚の栄養源は、ビジネスチャンスだった。それが充電された今、先程までは鉛のように重かった体も嘘のように軽くなっていた。メリハリのある動作で下着を脱ぎ、ドラム式洗濯機に鮮やかに叩きつけると、熱いシャワーを顔面から浴びる。
「面白くなってきたじゃないか」
ここ一ヶ月感じることのなかった刺激が、犬塚の体を支配していた。
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