第23話 嫌いより下

 中には個別に梱包された菓子が入っており、それを取り出せば、箱の裏側にも何やら印刷がされていた。


「興味がない、というのは、嫌い以下の感情よ」


 瓜生は中のチョコレートを開封し、口に入れた。もう一つを手のひらに取り、犬塚に手渡してくる。業務中なのにまずいのでは無いか、という考えより、瓜生に従わないことの方がまずいと判断し、犬塚は口に入れた。甘い香りが口に広がる。


「芸が細かいでしょ。表には大好きなキャラクター、開けるとかわいい袋があって、箱の裏側には占い機能がついてる。この箱をあけてお菓子を食べるという行為は、子供に取ってはアトラクションなのよ。見て楽しい、食べて楽しい。だから親にねだるのよ。その体験が忘れられなくて、また欲しがるの。子供は自分で買えないからね。わかる?」


 手渡された箱の裏側には、表紙とは別のキャラクターが描かれており、「大吉」と書いてあった。「信じれて頑張れば、いいことがある」とメッセージが添えられている。


「だから子供はひと目でわかるのよ、商品の違いが。それに付き合っているから、親御さんもわかるようになる。そういう興味を持って見れば、違いに気が付くのは容易いわ」


「なるほど」


 犬塚は自分の過去を振り返った。正直この話は、ピンと来ない。

 犬塚は学生時代、勉強で苦労した覚えが無かった。授業はちゃんと聞くのが当たり前だと思っていたし、それなりの成果を出すのもまた、学生であれば当たり前だと信じていた。友達が少なかった訳ではないが、勉強時間はそれとしてしっかり確保していた。

 大学も上位の四大に進学、経済や数字の仕組みなどを学んだ。体力をつける為に陸上系の部活にも参加していた。専攻は長距離で、そこでも成績はそこそこ。大会などでは、毎回スタメン入りする程度には成果を出していた。犬塚の関心は常に、「与えられたものに対して、いかに成果を提示するか」に帰結していた。

 ゆえに、趣味活動と言えるものが、思い当たらない。物事を好きになって、得意になる。そんなマインドが、全く育っていなかった。成果を出すために必要なのは分析であり、ロジカルに結果を出すための行動に徹することだ。それが努力だと、本気で信じていたのだ。


「その顔じゃ、いまいちって感じね」


 そんな犬塚の心理傾向を読み取ってか、あるいは表情に出ていたのかも知れない。瓜生は近所の世話焼きおばさんのように、「しょうがないわね」と言う顔で、そのとおりの事を言ったあと、犬塚の肩に手を置いて言った。


「その点で言えば、適任がいるわ」


 瓜生が指さした先には、あけみちゃんがいた。遅番シフトで出社予定だったのだろうか、豊満な何かを揺さぶりながら、バックヤードに駆けて行っている姿だった。


「あけみさん、ですか」


 瓜生はウィンクをした後、犬塚の尻をさすり、後ろ手でピースサインをしながら去っていった。犬塚は背筋に走る寒いものを感じながら、その場に残ってしまった菓子の処理に検討がつかず、固まってしまったのだった。



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