パート⑥ レジ業務の過酷さ

第21話 レジの悪夢

 二日目の業務はレジ打ちから始まった。


「ゆっくりでいいわよ」

「はい、すいません」


 犬塚は瓜生を指導官に迎え、繰り返し練習していた。指先が器用でない犬塚は、焦るとどうしても人差し指で入力してしまい、結果としてスキャナーに手を回せなくなる。


 トイアイダ鎌ヶ谷店に置いてあるレジシステムは旧式だが、その在庫照合システムに特徴がある。


 例えばおもちゃが一つ売れたら、まずレジ上の商品種別ボタンを押し、その後に商品をスキャンする。種別ボタンはざっと十数種類あり、いま運ばれてきた商品がどの種別に該当するかを瞬時に判断、つまり覚えておく必要がある。なぜなら商品種別を押し間違えると、スキャン時にエラー音が鳴るからだ。そのままでは販売出来ない。


 なぜこんなに面倒なのかと言うと、それはトイアイダという販売店の性質、アイダ玩具の直営店舗であるという都合があった。


 おもちゃのうち、キャラクター版権に該当する商品が含まれる他社製品は、ある一定期間、大幅な値下げ販売が出来ないようになっている。これら他社製品の在庫は「販売見込み品」として、トイアイダ全店舗の共有在庫として管理されているのだ。在庫数は全国レベルでサーバー管理され、言ってしまえば、在庫は本社が抱え、売り場としてお店がある、と言うニュアンスに近い。


 となると商品データベースが膨大になってしまい、この旧式のレジではその全てのスキャンコードを同時に読み出すことが出来ない。性能が足りないのだ。なので、予め該当する種別番号を押して、検索をかける範囲を限定しているのだ。


 面白い事に、アイダ玩具製の標品は種別関係なく「赤丸ボタン」で済む。この理由は、アイダ玩具製品は「店舗在庫扱い」となっているからだ。トイアイダ店舗でアイダ玩具の商品を売るときは、仕入れ、つまり「購入して店舗資産にしてから売る」のだ。これによりアイダ玩具製商品は、好きな値段で売る事が出来る。


 アイダ玩具側はトイアイダ店舗に卸した時点で利益が確定し、店舗側はアイダ製品を商材に様々な戦略が打ち出せる。例えば捨て値で売って客寄せにしてもよし、逆に利幅を取ってもいい。いずれにせよ売れたらそれが即粗利と計上できる。


 つまり、お客からすれば「一つのお店で買っている」に過ぎないが、お店からすれば「別々の販売店の商品を同時に売っている」という図式なのだ。


 と、ここで問題が出てくる。それが「戦略値下商品せんりゃくねさげしょうひん」だ。

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