アジェンダⅠ おもちゃおじさん爆誕の経緯
パート① 犬塚正男の異動の経緯
第2話 人生転落
とある居酒屋での光景である。
「お疲れ様でしたー!」
座敷の一角で盛り上がっているサラリーマン集団に、犬塚は居た。
「いやー、でも今回のは本当気持ちいいっすね。30億は固いんじゃないすか?」
「試算では43億円だった。シリーズ化すればもっとだ」
いかにも若者なノリは営業ホープの坂田、眼鏡を直しながら注釈したのが経理の
一杯目の生ビールを飲み干すと、酒田が手を上げた。「お、さすが部長、飲みっぷりが違いますねー。サーセン、生二つ!」
それを読んでいたように
「でも、これで事実上、次期社長は確定じゃないすか?」坂田は二杯目の生ビールを煽ると、ジョッキを叩きつけながら言った。「俺、嬉しいっすよ。ドッグファミリーで本当良かった。そんときゃ、ひとつポストをお願いしますよー!」
「こら坂田、滅多な事を言うんじゃない」
すぐに調子に乗る坂田に内海が釘を刺す。ドッグファミリーとは社内用語で、詰まるところ、犬塚を中心とした派閥を指していた。飛ぶ鳥を落とす勢いの犬塚に
「まぁまぁ、この際、細かいことは無しだ。今回も二人の協力が無ければ難しかっただろう。今後もこうして成果を出していきたいと俺は考えている」
その言葉に坂田が前のめりになる。「さすが犬塚部長。俺、まだまた頑張るんで、これからもよろしくお願いします」
「その節は是非、私も」
二人の部下が頭を下げている。こうして気に入られようとする、ガッツのある男は好きだった。何より持ち上げられて嫌な想いをする人は少ないだろう。
「わかった。任せておけ」
社長か。それも悪くないかもしれないな。
この俺の勢いを止められるものなんて、そうそういるはずが無いのだしな。
犬塚は二杯目のビールを飲み干した。
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