蘭百合榧(らんゆりかや)
「おはようございます、
ドア横のインターホンに話しかける。
時間は午前9時10分。
「ちょっと、早すぎたかな。でもまあ来たものはしょうがないか」
「
淡い期待。
でも聴こえてきたのは違う声だった。
「ゆりこ、百合子さんはいません!!」
強気の声。
百合子の姉、
その強がりにすこしむっとして思わず、
「嘘言え、百合子出せ!」
榧は抵抗した。
「うちの可愛い可愛い妹を呼び捨てにするなんて! どこのどいつよ、もう。って守野だっけ……あぁ、榧か」
「お姉ちゃんもういいからあっちいって。ごめんね、榧。今行くから」
がやっとした声の後ろからお目当ての百合子の声がした。
ようやく聞けたと榧は胸を撫で下ろした。
彼女が出てきたのはそれから5分ぐらい経った後だった。
-
「ごめんね、おまたせ」
「おはよう、百合子。大丈夫だよ」
彼女の姿を見た榧はほっとするが後ろのドアから変な視線を感じた。
「むむむ……」
苦虫を噛んだような顔をして蘭子がこっちを見ていた。
そんな自分の姉上から逃げるように、百合子は強引に榧の腕を引っ張り街へ繰り出した。
「榧、遊びに行くよ!」
「う、うん……」
-
容姿端麗、勉学オッケー、見てくれはいいが中身になると妹大好きという残念な人というか、面倒な人というか。
まあ、確かに百合子は可愛いし一緒にいると癒されるからなんとなくわか……いやなんでもない。
だから遊びに誘うのにも一苦労。
もっと普通だったらいいのに。
「ねぇ、榧。なに考えてるの?」
急に百合子に話を振られた。
「い、いや……なんでもないなんでもない。今日はどう遊びに行こうかって考えてたとこ」
「そっか。だったら私ね行きたい場所があるんだ」
にこにこしながら百合子は言った。
さっきまで頭の中にあったものをかき消して彼女の話を聞こうと榧は返した。
「それって、もしかして」
「うん、プッシュキルトだよ。なんかブログ見てたらエミイの新作衣装が出来たんだって」
エミイ。
正式名称はエミイドール。
玩具屋プッシュキルトで販売している様々な動物をモチーフにしたオリジナルの人形シリーズ。
掌サイズ15cmほどで小さい友達から大きな友達まで口コミで人気が広まっている。
衣装の着せ替えが可能なのが特徴。
お店の人が手作りしているので数はあんまり出ていないとか。
「ほらこの間ウサギドールが運良く買えたのはいいけど、なんか可愛い服が欲しくなっちゃって。
いろいろあれば着せ替えできるし、もっと楽しくなると思って」
百合子が目を輝かせながら話すのを聞きながら、
「まぁ、カスタムできるのは面白いよね」
とさらり榧は呟いた。
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