第11話「サーバーメンテナンス中です!」

 ここまでくると、原作の素材がほとんど残ってません。黒幕退場に伴ってラスボスがスイムスイムで確定。来たるべき最終決戦に向けて時間稼ぎテンションを上げていく構成になっており、Bパートはほとんどアニメオリジナルのシーンが続くことになります。また、クラムベリーの過去、リップルとスノーホワイトの邂逅、リップルの変身など、全体的に1話との対比がかなり明瞭なコンテになっていることも見逃せません。


   ※※※ ※※※


 黒幕クラムベリーが討ち取られます。ここはスイムスイムの正体がすでに明らかになっているだけに、原作以上にあっけない印象でした。黒幕といえど、あくまで参加者の一人でしかないんです。殺し合いの発端となったのはクラムベリーかもしれませんが、構成としてそこに重きを置いてないんですね。倒されることで特別なカタルシスがあるわけでもなければ、アッと驚くような背景が明かされるわけでもないんです。


 そこがたとえばまどマギとの決定的な違いですよね。SF的なシステム設計に背を向け、身も蓋もない殺し合いをただ淡々と叙述するのがまほいくなんです。言うなればハードボイルドですよね。『赤い収穫』みたいな話なんです。


 さて、クラムベリーの最期ですが、らしくないミスで命を落としてるんですよね。本来ならスイムチームにとってスノーホワイト以上に相性が悪い相手なんですよ。得意の奇襲が通じない上に、無敵のスイムスイムに有効打が入れられるわけですから。優れた聴覚を持ってるだけじゃなく、変身を解かないから、アリスみたいに人間時に仕留めることもできない。ミナエルが「こうすればよかったんだ」と奇襲の有効性を実感した直後に当たったのがこの人、というのが何とも巡り合わせが悪いところです。


 実力差を度外視しても、クラムベリーが圧倒的に有利なんですね。そんな人が、たまの奇襲を許してしまう……視覚に気を取られて聴覚がおざなりになるというおよそらしくない失敗をしてるわけです。スイムスイムの正体にそれだけ狼狽したってことなんですね。


 その心情を言語化することは難しいでしょう。というか不可能だと思います(原作でも「自分がびっくりしたことにびっくりした」という以上のことは書かれていません)。ただ、無関係と思えないのが、この人自身が幼くして魔法少女になっていることですよね。


 6話でも述べましたが、この人は子供なんです。幼くして魔法少女になって、そのままずっと変身を解いていない。人間としての時間が止まったままなんですね。アニメでは、回想でも人間時の姿が描かれない、死んでも変身が解けないってとこで、その異質さが表現されていたと思います。見た目からしてそれっぽいですが、ピーターパンなんです。


 このことは、試験官でありながら自らも試験に参加している……自分のルーツとなった体験を繰り返しているという点に象徴的ですよね。参加者の大半は死に、合格しても記憶を消されてしまう。この人だけがずっと試験を繰り返してるんですね。それがこの人のネバーランドなんです。自分一人だけが年を取らず、成人した子供を殺してしまうピーターパンと同じ孤独を抱えてるんです。


 そんな彼女が自分と近いものを感じていたのがスイムスイムです。なるほど、暴力を目的とするか手段とするかの違いこそあるものの、暴力によって孤立していくという点で両者は共通するんですね。


 そのことが示されるのが直後のたま殺しです。また、その後の、部下を手に入れる手段だって力で屈服させるっていう方向に向かってしまう。失敗したら、そのまま殺しにかかってしまう。けっきょく、クラムベリー同様暴力によって孤立していくんですね。


 余談ですけど、スイムスイム――坂凪綾名って子はキャンディー競争が絡まなくても暴力的なんです。後付けなんですけど「インタビュー・ウィズ・スイムスイム」って短編で「お姫様は暴力なんて振るうものか」と揶揄してきた男子をぼこぼこにしてるんですね。しかもそれをちくった女子もついでにぼこぼこにしたというのですから振るっています。この子はマルイノ先生の設定だと、ちょっと太めで体格がいい子らしいのですが、それが襲い掛かってくるわけですから怖いでしょうね。しかもあの無表情ですから。


 暴力が好きなわけじゃないんでしょうけど、目的のためならその行使を厭わない。ただ、その他の能力に欠けるから、暴力に頼ってしまう。不器用さが、リップルと重なるわけですね。


 たまにも触れておきましょうか。この子はとても優しい子です(屈折したオタクの皆さんは、「おとなしい」と「優しい」の組み合わせに慎重だと思いますけど)。優しいというのが適切と言っていいのかわかりませんが、友達想いな子です。ルーラの退場劇を思い出してください。この子はスイムスイムに騙される格好で手を貸してしまったんですね。そして、あの時点で、キャンディーの移動を頼んだ時点でもうこの子は引き返せなくなってるんです。というのも、あの時点でルーラを助けようとすれば、必然的にスイムスイムの謀反をばらすことになってしまう。ピーキーエンジェルズがどっちにつくかは微妙なとこですが、ルーラの代わりにスイムスイムが脱落する可能性があった。たまにとってこの二択は究極です。それを選べないまま迎えたのが、ルーラ退場だと思います。


 そして、今回。さっさと逃げずに戦場に留まり、クラムベリーの不意を突く大金星をあげます。この子はルーラの死を悲しむんですが、それを仕組んだ、あるいは自分をはめたスイムスイムのことも等しく友達だと思ってる。だから、助けた。善悪じゃなく、友達のためという行動原理が一本筋として通ってるんですね。けれど、彼女の献身はスイムスイムによってあっけなく裏切られてしまう。


 なぜかっていうと、「友達なんていい加減な関係はあり得ない」からです。ルーラとスイムスイムはルーラ組の年少組ですよね。記憶力に優れるスイムスイムに対して、物覚えが悪いたま。ルーラの言葉を覚えてるスイムスイムに対してルーラがしてくれたことを覚えてるたま。だから、スイムスイムは友達なんてありえないということを覚えている。一方のたまはルーラがしてくれたことは友達へのそれだと思ってるわけですね。


 たまの回想するルーラがいい人に見えますよね。このギャップは何かって言うと、この二人のものの見方の違いですよね。いずれのルーラも本物なんですが、思い出す人によって厳格な指導者にもなれば、面倒見がいいお姉さんにもなるわけです。口は悪いものの、根気があって、何をどうすればきちんと説明してくれるじゃないですか。おそらく、たまの人生でそういう大人っておばあちゃんくらいしかいなかったんです。親も先生もさじを投げていたのでしょう。しかし、ルーラは違った。繰り返しになりますが、面倒見がいいんです。


 そうであればこそ、スイムスイムもルーラに仕えたいと思ったわけです。そして、この考え方はこの子の資質に合ってるんですよね。って言うのも、この子は曖昧なことが理解できないんです。だから言葉に、命令してくれる人にすがるんです。原作の記述で、突然魔法少女になってどうすればいいかわからなかったスイムスイムに対して生き方を教えくれたのがルーラという記述があるんですが、これはそういうことですよね。アニメでも、命令を従容として受け入れてる。そして、ルーラに次ぐ実績を残してるわけですね。このあたりもたまと対照的ですけど。


 だから、いったいこれまで何を見てきたのかわかりませんけど、この子にとってのお姫様っていうのは人を仕えさせる人なんですね。王様なんです。お姫様なんて名ばかりで、この子のパーソナリティーっていうのは男性原理の権化なんです。ルーラの代わりにしても、何で務まったかって言うと、ルーラ語録というマニュアルがあったからですよね。つまり、ルーラ語録がそれなりに充実しつつあったので、それを参照すれば自分でも人を動かせるだろうという判断を下したのがあの謀反なわけです。


 スイムスイムはそもそも友達ってものが何なのか知らないわけです。これは、友の字を練習してるとこが決定的ですよね。あれは単に仲間たちのことを思い出すきっかけというだけじゃなく、友という概念をまだ学ぶ前の子供っていう表現なんですね。ルーラってのは人がいいとこもあるんですが、言葉としては絶対そういうヒューマンなことは教えてくれないわけです。だから、「部下の関係はあっても友達なんていい加減な関係はない」なんて言ってしまう。


 ルーラが切り捨てようとしたいい加減さってのをルーラ以上に徹底して切り捨てていくのがスイムスイムで……なのですが今回はその限界を示してるように思います。さっきも書きましたが、力だけに頼っていては孤立する一方なんです。彼女が求める「部下」も得られない。

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