第10話「乱入バトル確変中!」

 青い満月が印象的なアニメまほいくで、唯一、白昼に人が死ぬ回です。そうか、変身前を襲われるってことはお天道様の下で死ぬってことなんだなと膝を打ったものです。ABパートをまたいで手厚く葬られるアリスに対して、最後にあっけなく死んでしまうのがミナエルで、何か既視感があるなと思ったら、6話のラピュセルとマジカロイドが似たような関係でしたね。


   ※※※ ※※※


 アリスの退場劇です。前回の時点でもうどう殺すかまでだいたいわかってしまうのがアニメらしいところだと思います。ここまでくるともうほとんど『ぼくらの』です。次に死ぬのはお前だっていう。ですから、いきなり亜子の回想からはじまってもそこまで唐突には感じないのですね。スイムスイムの奇襲にしても同様で、いっそ居直るようにして原作よりしぶとく亜子を生き延びさせているのが印象的でした。


 亜子はさしづめ内罰的な華乃といったところですね。不器用ゆえ暴力にすがるんですが、この子の場合、それが自分自身に向いてしまう……というか向きかけていた。この子も、家庭環境そのものより、うまくコミュニケーションを取れないことが問題なんです。


 家庭のことがなくても、元々友達がいなさそう子じゃないですか。なのに、誰からも必要とされないことが寂しいっていう困った子なんです。自殺の動機がまた、父親に拒絶されたことですから。母親を殺した相手であっても、必要とされたい。そのくらい、深い孤独だってことですね。そんな彼女が親離れを強いられたときに現れたのが、魔法少女――自己実現の可能性という、これもやっぱり普遍的な物語の型なんですね。モチーフこそアリスですけど、むしろシンデレラです。


 おもしろいのが、魔法少女を目指しはじめてからの積極性ですよね。他人の迷惑どころか「白と黒できれい」なんて図々しいことまで考えてるわけです。なんで学校や家庭で同じことができないのかって話ですよね。彼女のこうした不器用さが、奇襲を受けたときの「周囲の目を気にして一人になる」っていう動きに対応しているように思えます。


 スイムスイムとの相似性についても補足しておきましょう。この二人はいずれも親離れを余儀なくされた疑似的な孤児であり、白い魔法少女に憧れて自己実現を目指すというところで共通しているのですね。それだけに、白と並ぶために黒くなったアリスと、自分と同じ白を排除しなければならなかったスイムスイムの対比がまた興味深いところですが、何より重要な点としては、やはり、二人とも人殺しであることなんですね。


 亜子の最期はそれを徹底して強調する演出になっています。水たまりから飛び出し、亜子の瞳に写るスイムスイム。これはいずれも鏡のイメージなんですね。二人の相似性が示唆されているんです。スイムスイムっていうのは亜子の影なんですね(おもしろいことに、ユング心理学では「影」はしばしば「細い道」としてイメージされます)。ですから、このシーンは、「スノーホワイトの隣に立つ魔法少女として思い描く自分」に変身できず、かわりに「人殺しとしての自分」が鏡の中から現れるっていう、亜子の自己実現に冷や水を浴びせるシーンなんです。


 最後に、父親とスイムスイムの目が重なるのも見逃せないところです。はっと驚く亜子。この驚きは何かって言うと、自分が何者かわかったっていう驚きですよね。亜子は原作だとはっきりと父親似と書いてあるんです。アニメでもそれこそ目の色なんかにそのDNAが窺えますけど、何より、父親と彼女を近づけてるのは、亜子もマジカロイドを殺してるってことですよね(ちなみにここ原作では罪悪感とか父親と同じ人殺しになってしまったことへの感慨よりスノーホワイトを守れた高揚感の方が大きいと書いてあるんですね)。父親を経由することで、両者の相似性が強調されてるんです。


 後はピーキーエンジェルズの過去ですが、回想の舞台がマンション、高い位置のカフェテリア、山と徹底して高い場所なんですね。だから有翼のアバターなのかと納得もできますし、何とかと煙は……と深読みもできるおもしろい演出でした。

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