第7話「親密度を上げよう!」

 短編から「ゾンビ・ウエスタン」をほとんどそのまま映像化。ゾンビVSカウ・ガールというと、B級、Z級のセンスですが、こういう身も蓋もないマッチアップもまほいくの魅力だったりします。Blu-ray特典の短編なんて「魔法少女VS鮫」ですしね(挿絵の馬鹿馬鹿しさだけでも一読の価値あり)。TSU○AYAで18禁になったゴア描写をはじめ、全体的にホラー的な演出が目立つエピソードでした。


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 アリスの不死性を強調することで、ハウダニット的な興味を喚起しています。つまり、これだけ「殺せない」ってことを強調するからにはどうにかして殺すだろうという、フラグになっているわけですね。また、この一件が次話のメアリ暴走の動機付けになっていたりとそれなりに有用な短編の使い方になっていたと思います。


 今回、暗示的だったのが、原形を留めないほどぐちゃぐちゃになったアリスをコンクリ詰めにして海に蹴落とすシーンです。本来の意図はどうあれ、ここまでこてこてした母胎回帰のメタファーもそうそうないと思います。アリスがそこから抜け出せたのは、もうすでに親離れがはじまってるからなんですね。このあたりは後々述べます。


 メアリっていうのは、鬼子母神や、童話の悪い魔女と同じで母性の負の側面の象徴なんです。元々、実の娘を虐待してたような人ですから、そうでなくても、すごくわかりやすい「悪い母親」ですよね(教育係を買って出たがる点も象徴的です)。実の娘にはじまり、ルーラ、トップスピード、リップル、マジカロイド、アリスといずれの娘たちに対しても頭を押さえつけて屈服させようとするんです。


 おもしろいのがマジカロイドですよね。この人は自分から家を飛び出したかと思えば、メアリとおっちゃんという親の代替を見つけてるんです。ここに、彼女らしい、自活してはいるもののモラトリアムな振る舞いが見て取れます。一方のメアリもこの舎弟をそれなりに気に入っていて、「いつか寝首をかいてくれそう」なんてよくわからない期待を持っていたりする。この人にだけは割とちゃんと母親をやってるんですね。


 そもそも今回の戦いからしてマジカロイドの弔い戦というニュアンスがなくもない(建前上は「顔が潰れる」ということですが)。このあたり、原作ではもっとわかりやすくて、手頃なターゲットとしてスノーホワイトを薦めてやったり、失敗した場合は「血しぶきで息もできないくらいの大殺戮で弔ってやるよ」と約束してやってたりします。


 次回の暴走も、もともとはそういう動機付けだったんですね。子供を失った母親が他の子供を害する……というといよいよ鬼子母神とかギリシャ神話のラミアみたいなグレートマザーのイメージに接近してきます。リップルが彼女と戦わなければならない理由もそこにあるんですね。


 リップル/華乃っていうキャラの根本にあるのは――これは原作もアニメも同じだと思いますが――不器用さです。暴力以外の形で人にコミットできないっていう、そこが一番の問題ですよね。舌打ちはそれを最大限マイルドにしたものだと思います。だから、メアリは彼女にとって母であるとともに暴力の行き着き先を暗示する影でもあるんですね。


 ただ、拳を振るった後、いつももっとうまい解決法があったんじゃないかと考えずにはいられない、そういう人だと思います。であればこそ、トップスピードにどうやって普通になれたのかと助言を求めたりするわけです。


 だから、ただ家庭環境に恵まれない子じゃないんです。むしろそこはあんまり重要じゃないですね。これは母親を反面教師にしてるからかもしれませんけど、「自分は不幸だー」って自己憐憫にひたるような人でもないですし。


 一番、問題なのは、義父のことを母親に相談せず出て行ってしまったこと……というか、そのことに象徴される母親との関係性だと思います。これはむかしからそうなのか、何を訴えても暖簾に腕押しだったので諦めたのかわかりませんけど、実の母親とさえ意思疎通が取れてないっていう、それが問題ですよね。


 まほいくは彼女が人との接し方を学んで「普通」になっていく物語なんですが、それと同時に逃れがたい暴力の渦中に巻き込まれていくという、ほとんどフィルム・ノワールみたいなジレンマの物語なんです。最近の――というほど最近でもないですけど――映画だと『ドライヴ』とか『ザ・タウン』なんかはまさにそういう話だったりします。

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