第6話「激レアアイテムをゲットしよう!」

 幻の一戦ラ・ピュセルVSクラムベリー戦を映像化。直接的な殺し合いって、実は、このマッチアップがはじめてなんですよね。そんな重要な戦いをすべて行間で処理してしまった原作の経済性には、あらためて惚れ惚れとしてしまいます。血で顔を真っ赤に染めるラ・ピュセルとか、体の火照りを持て余した団地妻みたいな表情と台詞回しでヤバい性癖(誤用)をぶっちゃけはじめるクラムベリーとか、全部アニメで0から作られたものですからね。


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 とうとう、本格的な殺し合いがはじまります。のろしを上げるのはやはりクラムベリーとメアリ。巻き込まれるのがラ・ピュセルとマジカロイドですが、いずれも最後には自ら命のやり取りに臨んでるんですね。実は、以降の殺し合いも同じで、殺さないかぎりは殺されないんです。今回スノーホワイトが何もしなくても勝手に助かるのはそういうわけです。あるいは、善行が回り回って自分を助ける。だから、よきにつけ悪しきにつけ、自分がしたことは自分に帰ってくるという至極教訓的な話になったりするんですよね。


 退場者の話をしましょう。まずはマジカロイドですが、この人は言うなれば、裏リップルなんですね。リップルと同じような境遇で、逆の行動を、リップルが取らなかった行動をとる。家出してるとこも同じなら、メアリとの劇中での「初対面」で銃を突きつけられてるのも同じなんですが、この人はメアリを、むかつかせない。それどころか気に入られている。向上心こそないものの世渡りはそこそこうまそうなんですね。


 この人は家出中のフリーターという身の上に象徴的なようにやりたいこと、実現すべき自己がなくふらふらしてる人です。やりたくないことはやらない。でも、やりたいことも特になさそうな、そんな人です。アバターも他人の借りものですしね。


 また、クラムベリーやメアリのように、暴力に悦びを見いだすことさえできない。わざわざ「エクスタシー」と言うからにはそういう期待がなくもなかったはずなんですが、それすらも叶わないんです。そのことに気づいた瞬間命を落としてしまうわけで、けっきょく、最期までやりたいことが見つからない人生だったという話なんですね。


 続いてラピュセルですが、こちらはずいぶんと華々しく送り出されましたね。原作ラ・ピュセルだったら、顔が真っ赤になるとこで死んでいたと思います。つまり、「やばい、ガチファイトだ」って気づいた瞬間ですね。「僕はこんなことのために魔法少女になったんじゃない」って。


 そもそも、ここでラ・ピュセルが戦うべき理由は何もないわけです。それでも勝負に乗ったのは、ずばり、中身が中学二年生だからです。早い話がボンクラなんですね。ラ・ピュセルっていうのは、スノーホワイトとのやり取りでしばしば強調されるように女騎士というロールプレイを楽しんでる人なんです。だから、決闘のお誘いに「楽しそうだぜ、ヒャハー」ってほいほいついて行ってしまう。プロレスごっこ感覚ですよね。言うなれば、彼にとってのクラムベリーというのは魔法少女世界でようやくできた男友達のようなものなんですね。


 ただ、アニメでは原作の先を描いています。クラムベリーの頭上を越えて背後を取り、突進していくシーンですね。このときの彼はもうプロレスごっこの気分ではなく、ガチで殺りにいってるわけです。それは「そのガチファイト乗った」という意味ではなく、「こいつは生かしといちゃダメだ」っていう信念に基づいた行動なんですが、クラムベリーが台詞とは裏腹に満足そうなのは、理由はどうあれ、ラ・ピュセルが命を取りに来たからですね。


 ただ、やっぱり戦う動機としては弱いんですよね。作劇上、具体的な形で示されていない。クラムベリーも「安心しろ。あの白いのにもすぐ後を追わせてやる。ケケケケケ」なんて言う人じゃありませんし。どうやってもヒロイックにしようがない戦いなんです。なんですが、アニメではこの無為な戦いに象徴的な意味を与えているんですね。イニシエーションになってるんです。クラムベリーをラ・ピュセルにとっての影に見立てて、それを倒すことで成長する、大人になる。いつまでも子供のまま戦いを楽しむクラムベリーに対して、ラピュセルが「俺大人になるわ、遊びとかじゃなく好きな女の子を守るために戦うわ」って決別する戦いになっているんです。


 ただ、これも最後にはクラムベリー視点にひっくり返ってしまうんですね。大人になるために戦うラ・ピュセルに対して、それを潰すことで改めて子供の時間を長引かせるクラムベリーの話になってしまうんです。ねむりんのときと同様、梯子を外されてしまう。



「死ぬ事」にはそんなに重きを置いてなくて、あくまで「生きる事」を描いた作品


   BD4巻ブックレット収録リップル役・沼倉愛美インタビューより



 これはまったくその通りで、まほいくの死は本当に唐突であっけない。それそのものは全然ドラマチックじゃないんですね。殺される個人の事情を全く斟酌してくれない。例外がいるとしたらアリスくらいです。逃げても、抗っても、死ぬときは死ぬ。ただ、そうであればこそ、必死に生きようとする姿が輝くのではないでしょうか。

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