第1話「夢と魔法の世界へようこそ!」

 リアルタイムで視聴したとき、同クールの作品と比べても作画が頭一つ抜けてるなあと感じた覚えがあります。原作の――想像するだに動かすのが大変そうな――デザインもほとんどそのままトレースされており、目のハイライト、風に揺れる髪など、原作でも重要な要素である「魔法少女の美しさ」がこれでもかとばかりに強調されているのが印象的でした。さすが、「ごちうさ」監督の面目躍如といったところでしょうか。スノーホワイトでなくとも心ぴょんぴょんしてしまいそうです。ただ、愛敬氏のキャラデザがあんまりにかわいいので、変身前の小雪までもが並のヒロインよりかわいく見えてしまうのは作品の主旨を考えると一長一短だと思います。かわいいは必ずしも正義ではないわけです。


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 前述の通り作画は整ってますし、ソーシャルゲームで遊んでいたら自分がそのアバターになってしまうというアイディアや、キャラクターの多彩さ、SDキャラで表現されるチャットルームのやりとり、魔法少女の華やかな世界と対比される地方都市の街並みなど、世界観やアートワークの魅力は十二分に打ち出せていると思います。


 原作と違って小雪視点の導入部となっていますが、内容としては原作の描写におおよそ忠実と言っていいでしょう。アニメ化にあたって感情移入しやすい導線を特に新設することなく、一見普通に見えて全然普通じゃない主人公をポンと突きつけてくるぶっきらぼうさにアニメならではの「まほいくらしさ」を感じました。


「それでも私は夢見てる」というコピーが象徴するように、アニメまほいくは何よりもまず小雪の物語であり、魔法少女という自己実現の物語であることが強調されているのですが、だからといって主人公が特別扱いされるわけでもなければ、その自己実現が必ずしも肯定的に描かれるわけでもないんですね。


 たとえば、1話はABパートの最後にそれぞれ山場となるシーンがあります。夢と再会。いずれも小雪にとってはドラマチックな出来事なのですが、それを視聴者に共有させようという構成にはなっていないのですね。


 まずは、Aパート最後の変身シーンです。このシーン、アニメとしての華やかさはあるものの、そこに至るまでの過程に努力や葛藤がまったくないわけです。要するに全然ドラマチックじゃない。ドラマとはすなわち相克ですが、実現する「夢」に対する「現実」があまりに希薄すぎるんです。なるほど、原作で――と言ってもアニメでも同じですが――小雪の学年が中学二年生という落ち着いた時期に設定されていたのは、学生という身分を抽象化するためだったのかと納得したくらいです。


 たとえば、進路と絡めて「夢か現実か」という安易な二択を演出することもできたはずなんですが、そういう(小雪にとっても視聴者にとっても)親切なことはおそらくあえてやっていない。原作通りの、小雪という地に足着かないキャラクターをそのままポンと放り出してくるので、視聴者は、果たしてこれが肯定すべきことなのかどうか自分で考えなくてはならなくなる。バックに陽気な音楽が流れてはいますが、あれはあくまで小雪の心象表現でしかないわけです。


 続いて、Bパート最後の颯太との再会ですが、これもやっぱりどこか実感に欠けるんですよね。なぜかっていうと、「中学生の颯太」が一度も登場しないからだと思います。「魔法少女のことなんて忘れちゃったんだろうなあ」という台詞だけでなく、たとえば、すっかりサッカー少年の風貌になった颯太と通学路やバスの中ですれ違わせるくらいのことはしてもよさそうなものですが、やはりそういうことはやっていない。登場するのは小雪の回想と、ラ・ピュセルとしての姿だけなんです。だから、岸辺颯太という人物が実在するのかかなり怪しいニュアンスになってるんですよね。


 これはつまり、颯太を小雪にとっての夢の世界の側に属す存在として描いてるんです。早い話が、イマジナリーコンパニオンなんですよ。「ヘンゼルとグレーテル」が代表的ですが、童話ではしばしば幼い兄妹が主人公になりますが、あれは何かって言うと、幼い頃の、男女の性差が曖昧で未分化な状態の比喩なんですね。要するに、二人で一つの人格なんです。


 幼い頃の小雪と颯太もそれと同じなんです。それが成長して、男女の違いがはっきりしてきて、だけど、魔法少女というマジックが性差を無化してしまう、再び二人は一つになる……それがこの1話です。つまり、小雪の夢ってのはすごく幼い……退行的なものとして描かれてるんですね。だから彼女は、原作の華乃みたいに疑問に思って当然のこと――魔法少女やキャンディー集め、ファヴの背景にあるもの――にも気づけないんです。そういう危うさが、一見、平穏に見える1話ですでに示唆されているように思いました。

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