第2話


『恋が叶うおまじないなんだって』


そう言ってはにかんだ彰の顔が、脳裏に焼き付いている。胸がツキリと傷んだ。

自身のよく焼けた肌を見る。短い髪の毛を見る。口の中で弾ける檸檬味すら憎らしくなって、私はそれをガリリと噛み砕いた。


鈴宮彰は私の幼馴染だ。

昔から走ることが好きな彰に合わせているうちに、いつの間にか私も走ることが好きになっていた。だから、中学も、高校も、彰と同じ陸上部に入った。

心底楽しそうに綺麗なフォームで走る彰はとても格好よくて、そして油断していた。ずっと隣にいた私のことを、彰も見てくれていたとは限らないのに。

『皆川有理沙』

彰の口からは、いつの間にかその子の名前ばかり出るようになった。恋、してるんだ。直感した。

そんなの嫌だった。私の好きな彰は陸上馬鹿で、恋愛なんて興味もなくて、そしていつも私の隣にいてくれる。

こんなの、彰じゃない。


皆川さんの良くない噂を回した。すると皆、クスクス笑いながらその噂を広め、皆川さんはいつしかひとりぼっちになった。

悪いことをしている自覚はある。けれど、止められなかった。だって彰は私のものなのに。ぱっと出てきたあの子が、奪い取ったんだもん。

それでも彰は、皆川さんが好きだと言う。私とは正反対の、綺麗な皆川さんのことを。

見た目も、心も、私とは違って綺麗な皆川さんのことを。


檸檬味のしゅわしゅわ弾ける飴玉。好きな人にそれをあげると、両思いになれるんだと彼は照れくさそうに笑っていた。

『由依にもやるよ。はい』

ついでのように渡されたそれは、私の心のドロドロしたものの中に沈んでいく。

恋が叶うおまじないだと言うなら、どうして私の恋を叶えてくれないの。

涙がこぼれ落ちる。大好きで仕方がないのに、どうしたら良いか分からない。

蝉時雨が呪いのように降り注いでいた。

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