第2話 初めての依頼者

 彼女がまず少年に対して思ったことは、……どこにでもいる気弱そうな少年だな。ということだった。

「この少年が、依頼者なのかい?」

「そうよ。彼があなたの初めてのお相手よ」

変な言い方をするなと思い、改めて質問しようとすると、少年が顔を赤くしながら口を開き「は、初めて…」と呟いたのが聞こえてきた。

 ……さすが思春期の男子。想像力豊かだな。

 思春期男子特有の反応を、ちょっと可愛いと思っていると、大家が口を開き

「この子、私の甥っ子なのよ。今はちょっと事情があって私のマンションで部屋を借りて1人暮らしをしているのよ。」

 大家のサラリと混ぜてきた金待ち自慢に苛立ちを感じたが、あえてスルーして未だに顔赤くしている少年に質問をした。

「この大家の金待ち自慢は、スルーして早く君口から依頼を聞かせてくれるかい。この私、名探偵橘京子にどんな依頼したいんだい?」

 大家の笑いを堪えているに、また苛立ちを感じつつも目の前の少年口を開くの待った。


 大家は笑いを堪えつつ、連れてきた少年の喋り出す声を聞いた。

「は、初めまして!。せ、青南高校に通っています、明石正宗と言います!よ、よ、よろしくお願いします!!!」

 ——相変わらず女性の前だと緊張しするのね……。しばらく会っていなかったから、治っているかと思ったけれど……大丈夫かしら……。

 相変わらずだなと感じつつ

 ……さて、この自称名探偵は、この依頼無事解決できるかしら。見ものだわ。

 依頼を聞くことにしゅうちゅうしている、彼女を見て口元を緩ませた。


「実は、今通っている高校で事件がありまして…」

「事件?」

 目の前に立つ少年の事件と言う言葉を聞き、京子が少し眉を顰めると、慌てて少年は、

「あ、いえ!本当にちょっとした事件なんですよ!ただ、よくわからないと言いますか……不思議なんです。」

「不思議?……。どんな風に不思議なんだい?」

「はい……。2週間くらいになるんですけど、学校でボヤ騒ぎがあったんです。」

「ボヤ騒ぎ?」

「はい。橘さんは、ウチの学校が結構古いのはご存知でしょうか?」

 少年の問いに、彼女は近所に佇む高校を思い出しつつ答えた。

「確か、この前近くを通った時に、創立100周年とタレ幕が下がっていたな……。」

 京子は、この事務所を借りる際に下見でこの周辺を見て回っていた。少年の通う青南高校は、駅の近くにある商店街と住宅地の間に建てられており、人気の学校であると聞いたことがある。

「それが、今回の依頼と関係が?」

「はい。その創立100周年記念のイベントの最中に旧校舎にある、僕達の教室で起こったんです。」

 ……教室?

 京子は教室と言う言葉に違和感を感じた。

「校舎の外に建てられてたりする、用具小屋とか、ごみ捨て場ではなくてかい?」

 少年は、京子の問いに頷きつつ、

「そうなんです。幸いクラスの子達は体育館での、全校生徒集会に参加していたので、怪我人は居なかったのです。ただ、何人かの持ち物が少し燃えただけでした。」

「そうか。怪我人が居ないのは何よりだったな。でも、それのどこが不思議なんだい?普通に考えれば、生徒皆が、全校生徒集会に参加している最中に不審者が侵入し放火。又は、生徒が集会を抜け出して放火したって考えられる。」

 他にも、いくつか原因を思いついたが、どれであったとしても特段不思議なことはなく、警察だけで解決できると京子は思った。

 ……まあ、まだ解決していないと言うことは、警察も苦戦しているのだろう。警察が苦戦している事件をサラリと私が解決。うむ、初依頼にはちょうどいいな!

 京子が、「私立探偵が事件を解決!?」「美人探偵大活躍!」などの新聞やネットニュースの題名を考えてニヤついていると

「あの〜……?」

「!?。おっと、すまない。さ、続き話してくれたまえ。君が今回の事件で何をどう不思議と感じたんだい?」

 少年の声によって、現実に引き戻された京子は、少年の隣で、口元を手で押さえ、抑え笑い堪えている大家を見なかったことにして、依頼の本題を聞いた。

「はい……。実は、その燃えているところを誰も見ていないんです。」

「スプリンクラーで消火されていたのかい?」

「いえ、防火装置が働いたわけでもなく、ましてや誰かが火を消したわけでないんです。」

「ん?何故誰かが火を消したわけでないとわかるんだい?火が消えてるんだ。必ず何かで火を消した痕跡が——」

 そこまで話すと、流石に京子も理解した。何故、このボヤ騒ぎが不思議なのか。何故、警察が手をこまねいているのかを。

 少年の方も京子が理解したことに気付き、この事件最大の謎を述べた。

「何もないんです。消火剤の後も、水で消した後も。誰も気付かずに突然燃えて、誰も気付かずに勝手に火が消えたんです。」

 少年の口から述べられた内容は、確かに誰もが頭を抱える事件だった。そして、京子は思った。

 ……どこがちょっとした事件なんだ……。

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