2枚目 メッセージ
飛行機がだんだん遠くなっていく。
日本がどんどん小さくなっていく。
私が小説家ならこう書いていただろう。
しかし、私は写真家としての旅を始めた。
文章表現なんて使えない。
1枚の、0.1秒にも満たない光を使って表現する。
私にそれが出来るのか。
写真を見せただけでその言葉を伝えられるのか。
ずっと不安で仕方なかった。
それでも────
あとには引けない。
私は素晴らしくて偉大な写真家になりたいわけじゃない。
ただ単に私が伝えたいことを伝えられる写真を撮りたいだけなのだ。
1枚にどれだけのメッセージを込められるのか。
長い飛行機の旅も終わりを迎えようとしているのだろう。
窓の外の鳥の姿をファインダー越しに見る。
そして────
ボタンを1回長押しする。
視界が一瞬暗くなり、再び空の景色が見える。
「We are now on our final approach.」(ただいま当機は、最終着陸段階に入りました。)
「We will be on the ground shortly.」
(まもなく着陸いたします。)
だんだん地面が近づいてくる。
ゴゴン────
飛行機を降りると、空気が変わった。
日本とは違うなんとも言えない香りがした。
「Misaki. I am the guide Pablo José.」
「Nice to meet you.」
「じゃあ、早速撮影スポットへ行こうか?海咲。」
「え?あ、はい。」
────日本語、話せるの!?
絶対思わず「はい。」って言っちゃったけど、正直まだ空港にいたい。
今見えている彼らと現地人との差を伝えたかった。
ガイドと見比べても一目瞭然だったから。
「日常が日常では無い生活。」
「行かないのですか?」
「少し待っていただけますか?」
「えぇ。」
私は歩いてくる1組の日本人家族に声をかけた。
「写真を撮らせていただけますか?」
「すみません、時間が無いので・・・」
「そうですか・・・」
1時間探したが誰も引き受けてくれなかった。
なら────
私が被写体になればいい。
そして私は汚れた服を着た少年に声をかけた。
彼を見つけたのは空港を出てせいぜい30キロほど移動した所だった。
彼との1枚────
私の前に普通の少年が立っている構図の1枚。
最初で最後の1枚。
彼はその10日後、抗争に巻き込まれて亡くなった。
写真というものを知らないまま死んでいってしまった。
私が持っている1枚が彼の最後の思い出を残した1枚なのである。
『今はデータだとしても、1枚1枚を大切にしなければならない。
1秒、0.1秒でも大切に生きなければならない。』
道はいつ閉ざされるかわからない。
よく言われるけど、私はそんなの建前だ。
普段の生活で満足なわけがない。
まぁ、事故や病気じゃない状態で、今日、死んでもいいと思えるくらいに生きるというのが一番いい気がする。
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