写真を取りに行ったら

囲会多マッキー

1枚目 出発の時

 3月20日、


 私が出発する日だ。


 鳥山 海咲とりやま みさき20歳。


 受験はしないので、学生生活最後の3月である。


 3月頭に卒業した私は旅をする。そして、


「このカメラで・・・」


 ────世界中の景色を撮りに行く。


 そして、スーツケースに必要最低限のものだけ入れた。


 親の車に乗るのもこれで最後だろう。


 私が、世界中を飛び回ると言った時、もちろん反対された。


 でも、それが私のやりたいことだと知ったお父さん達は応援してくれた。


 今までの貯金をはたいて。さらに小さな会社ではあるが、スポンサーまで付いてくれた。


「全く・・・仕方ないな。行ってこい。」


 その言葉と共に飛行機のチケット代をくれた。


「少ないが、餞別だ。受け取れ。」


 素っ気ないが、1番優しかったのはお父さんだった。


 車の中で父との思い出が脳内で沢山再生された。


 車から降りた私は、涼しい外を通って、お土産屋を抜けて・・・


 人が到着ロビーに沢山向かっているのをよそ目に出発ロビーに向かう私たち。


 最後になるだろう家族写真は既に撮っている。


 ここですることは何も無いだろう。


「水には、気をつけてな。」


「うん。」


「身体にも気をつけるのよ。」


「うん。」


 父を見ると、透明な雫が床にこぼれていた。


 その姿をみたのは初めてだった。


 今までは強がっていたんだ。実は繊細な人だったのだと初めて知った。


「行ってきます。」


 その言葉を残した私はカメラを手に保安検査場を通過した。


 その時も父は私を見守ってくれていた。


 後に母との電話で知ったのだが、私が飛行機に搭乗する時も、そして離陸する時まで出発ロビーから1歩も動かなかったそうだ。


 ────そして、飛行機が動き出した。


 私と父、そして母の思い出が沢山ある日本を離れて。


 私の思い出も入り切らなかった。


 ────だから、一つだけ。


 父から貰った不格好だけど、一生懸命作ってくれたストラップだけ。


 お父さん、お母さんへ。


 たくさんの思い出をこの1枚に収めておきます。


 絶対に同じ写真は二度と撮れない。


 0.001秒経ってしまっただけで、全く違う写真になってしまう。


 その0.001秒を収めるために旅をする。


 私が生きているうちに出来るのは写真で伝えることだけだ。


 このカメラで、


 沢山の人を笑顔にしたい。


 たくさんの悲劇を伝えなければならない。


 沢山のことを訴えなければならない。


 その信念とともに────


 私は最後になるだろう、家族写真と共にその手紙を父がよく読む本のあいだに挟んできた。


 私、鳥山海咲はカメラマンとしてたくさんのメッセージを伝えてきます。


 そして、応援してくれてありがとう。


 楽しい人生にしてくれてありがとう。


 それでは、行ってきます。


 鳥山海咲

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