第6話 高柳さんには抑揚がない
現在、僕はとあるコンテストに作品を応募している。
元々僕は祭好きな性分なので、コンテストが開催されていて応募規定を満たしている作品が手元にあるとつい参加してしまいたくなるのだ。
かつてはそれで入賞してプロ作家になろうとも考えていた時代があったが、それは現在は考えてはいない。万が一(まあまずありえないだろうが)賞を取って作品が書籍化されてプロ作家への道が開かれたとしたら、それは名誉なことだと思って胸を張ってその道を進もうとは考えているが。考えるだけならばタダだ、それくらい良いだろう? 誰にも迷惑かけていないのだから。
話が横道に逸れたが、そのコンテストは此処カクヨムで開催されているものではない。アマチュアだけしか参加できないもので、仮に入賞してもその作品が書籍化するわけでもプロ作家になれるわけでもない。入賞すればプロのイラストレーターさんに作品の絵を描いて頂けるという特典はあるが、言ってしまえばそれだけの、本当にお祭イベントのようなものである。
そのコンテストでは他にも応募作品を読んだプロ作家が感想を述べてくれるというサービスを行っていて、ある意味それも報酬のひとつだと言える。このコンテストの参加者の中にはそれを目的としている人もいるらしい。
感想を書かれる作品は、数日おきにランダムで選出される。どういう基準で選ばれているのかは分からないが、見事に選ばれたらそれは運が良いことだと喜んでいいと思う。
先日、そのコンテストに参加させていた拙作「三十路の魔法使い」に有難くも感想を頂いた。
そこには「読者を世界に引き込む力がある良作だ」とお褒めの言葉が綴られていたのだが、同時にこんなことも書かれていた。
「個人的には抑揚のあるストーリーの方が好みだ」と。
それを見た瞬間、僕は昔のことを思い出した。
昔……といってもさほど過去のことでもないが。小説家になろうの方で開催されていたコンテストに応募していた「鑑定士のおしごと」という拙作が、これとほぼ同じ評価をされていたということに。
この作品、そのコンテストではどうやらそこそこ最後の方まで選考に残っていたらしい。結局入選とはならなかったのだが、有難くも審査員からの感想を頂くことができたのだ。その際にも「話のテンポに抑揚がない」と指摘されていたのである。
当時その評価を頂いた僕は、必死になって考えた。抑揚のある話とは一体何なのだろうかと。
抑揚とは……言葉自体の意味は、次の通りである。
抑揚……音楽、音声、文章などの調子の上げ下げのこと。
言葉通りに考えるならば、ストーリーに波を作ること……つまり盛り上がる山場を作って話に波を生むことなのだろう。
確かに、過去に指摘された鑑定士の話はそれがあまりなかったように思えた。全く山場が存在しないわけではないが、全体的に大人しい内容だったという自覚はある。
それからは、そこを自分なりに自覚した上で話作りをするように心掛けた。山場もきちんと作って、読み手が退屈しないように盛り上げるべき箇所はしっかりと盛り上げてきたつもりだ。
そうして幾つか作品を書いた後に、書き始めた作品……三十路の魔法使い。今度こそは大丈夫だろうと、僕自身はそれなりに自信があったのだが。
しかしまさかそれですら、同じように抑揚がないと指摘されてしまうとは思わなかった。
プロ作家の言葉は絶対である、とは思っていないが、アマチュア作家よりは鋭い目を持っていることは確かである。そのプロ作家がそう言っているのだから、僕の作品には抑揚が存在していないのだろう。
山場をそれなりに盛り込んであるはずなのに、それでも抑揚がないと判断される。となると、小説における抑揚とは一体何なのか。こうなってしまうと僕の知識量に乏しい頭では分かるわけがない。
ある作家仲間の方にそれとなく訊いてみたら、こんな風に答えてくれた。
「荒削りなところがない分、勢いがないということなのかもしれない」と。
その方にとっては、僕の作品は全体的に無難に纏められている印象を受けるらしい。一見良いことのように思えるかもしれないが、それはすなわち「尖っている箇所がないからインパクトが薄い」ということであって。
それは確かに作品としては致命的だな、と思えた。
昔書いた作品の中で料理をテーマにしたものがあるのだが、その中で僕はこんなことを書いたことがある。
「料理とはハーモニーが織り成す芸術である。不協和音しか奏でぬ料理と、そもそも和音が存在しない料理……どちらが選択肢としてはまともだったのだろうか」
料理と小説は全くの別物だが、もしかしたらそういうことなのかもしれない。
小説は、読者の心にガツンと響くスパイスを利かせた味がないと、魅力がないと判断されて手をつけられなくなってしまうのかもしれない。
昨今は様々な小説投稿サイトが存在していて、数多くの作品が公開されている、言わば作品飽和状態にある。読み手が無料で好きなものを味わうことができ、少しでも口に合わなかったらすぐに手をつけるのをやめることができるのだ。
目の前に大量の料理が並べられていたら、美味しくて好きなものだけを食べたいと思うのが人間の性である。WEB小説と読者の関係もそれと同じなのだ。無料だから、無理してまで最後まで読みたいとは思わないのである。
如何にして読者を虜にする味を持った作品が書けるのか……おそらく多くのアマチュア作家が求めている命題の答えだろう。僕だってその答えを知りたい。プロ作家になりたいという夢は既に何処かへと置いて来てしまったが、良い作品を書き残したいという思いは昔から変わらないのだ。
今日も僕は、話の抑揚とは何だと思案しながらカクヨムのタイトル斬りコンテストに向けて作品を書いている。
やはり単なるお祭根性で参加しているだけではあるが……それでも、僕の書いた作品を偶然見つけた人が少しでも面白いと感じてくれればいいなと願っている。
最後に、微妙に宣伝じみてしまうのがアレだが……抑揚がない話というものが如何なる代物なのかということに興味があるのなら、上に挙げた二つの作品を覗いてみて「ああ、こういうことなのか」と感じてほしい。これから良い作品を書こうとしている貴方は、僕が書くような平坦な作品は決して書かないようにしてほしいと願っている。
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