第4話 高柳さんはそれを個性と主張する
小説を書くに当たって、僕にはひとつの譲れない拘りがある。
それは、
「今流行りのWEB小説風の書き方をしない」
ということだ。
昨今のWEB小説は、その大半が現代では主流となりつつある「適度に空白行を入れて読みやすさを重視した文体」を見据えた書き方をしている。既に書籍化されているWEB小説発の作品も、殆どがその手法を取っている。
これは、作家が自作が書籍化されることを目指して、読者の意見に歩み寄って文章の書き方を変化させていったからこのような形になったと言われているそうだ。
確かに、地の文が適度に区切られた文章は、ぱっと見読みやすいと感じる。
しかし僕は、敢えてこの書き方を用いない執筆方法を取っている。
僕の小説の書き方は、現代のWEB小説では殆ど見られないであろう昔ながらの手法に基づいている。
昔の紙媒体の小説で当たり前のように用いられていた、必要時以外は空白行を入れない書き方だ。
ライトノベルも、ちょっと昔はそういう書き方が主流だった。どんなに内容が砕けたギャグ系の作品でも、そんなにやたらと空白行が空いた書き方はされていなかったのだ。
僕は小説の書き方に関する専門的な勉強を誰かに教わったことはない。当時人気だったライトノベル作品を読んで、そこから独学で小説の書き方を一から学んだのである。
僕の作品に書かれる感想の中で最も多いのが「空白行を適度に入れるともっと文章が読みやすくなる」というものだ。
現代のWEB小説読者にとって、一昔前の、言ってしまえば古い書き方をしている僕の作品はやたらと字が詰まっていて読みづらいものに思えるだろう。それは僕も重々承知していることではある。修正した方が、読者受けが良くなるであろうことも分かっているのだ。
しかし、この書き方こそが『僕の個性を表した文体』なのだと考えている僕は、これから先もこの書き方だけは生涯変えることはないだろう。
自分らしさを捨ててまで注目を浴びたいと思っていないのである。僕は。
感想をくれた人たちは、善意のアドバイスとして上の言葉を僕に送ってくれたのだろう。それはとても有難いことだし、せっかく頂いた善意なのだから大切に受け取りたいとは思っている。
しかし、申し訳ない。僕は今の書き方を変えるつもりだけはさらさらない。
変えてしまったら、その時点でその作品からは『僕らしさ』が失われてしまうと思うからだ。
……まあ、空白行を入れた小説を書く練習を全くしていないとは、言わないが。
だがそちらの書き方をメインにすることはないだろう。断じて。
最近になってツイッター上でよく見かけるようになったのだが、現在とある書籍化作品の文体についてが話題になっているらしい。
詳しくは知らないのだが、どうやらその作品はかなり特徴的な文体をしているそうで、その書き方をネタにされたり馬鹿にされたりしているそうだ。
文章の一部を抜粋した写真が掲載されていたので興味本位で見てみたのだが、そこにあったのはやたらと効果音を長く繋げて書き表している文章だった。
多分僕の説明だといまいちイメージが浮かばないだろうと思うので、興味があるようならば各自で検索してみてほしい。割と広く取り上げられている情報のようだから、すぐにそれっぽいものが見つかるだろう。
──話を戻すが、その作品に対して読者が送った感想の中には結構酷いものもあったそうで、中には「こんなの俺だって書ける」的な内容のものまであったらしい。
そりゃ、書くだけならできるだろう。最低限の文章を書く能力と言葉の知識さえあれば、似たようなものは書ける。多分僕だって似たものを書くだけならできる。
だが、その文体で書籍化までされるほどのヒット作を書くことができるか? と問われたら、僕はすぐに「無理だ」と首を振るだろう。
世の実力のある文豪レベルの作品ともなると、作者名を明かさずともその文体を一目見ただけで誰の作品なのかが分かるらしい。
文体とは、作者にとっての『個性』である。如何に自分の書く文章に『個性』を込めて、なおかつそれを維持しながら人を魅了する力を放てるかが、一流の作家になる分かれ道だと、僕はそう思っている。
件の作家が書いたその作品にはそれだけの魅力があったから、書籍化までされて多くの人に売れた。例の文体はたまたまそういう書き方をされていただけであって、決してそれを出版社に面白がられて書籍化されたわけではないのだ。
安易に自分でも同じものが書けるなどと言ってはいけない。プロにだって簡単に言えない言葉が、素人如きに口にできるわけがないだろう。作家を甘く見るんじゃない。
例の事件(?)に関しては、作者側も何やら宜しくない反応を読者側にしたとかで、そのせいで余計に話がヒートアップしているらしいと聞いているが……件の作者も、文体に関しては「これが自分の書き方だ」と胸を張っていて良かったのではないかと思う。作品を書くこと自体に関しては恥じるようなことは何もしていないのだから、わざわざ変な反応をすることはなかったのだ。
僕個人としては、その文体は個人的にあまり好きではないので、書籍を買うことはおそらくないだろうが……その作風を批判はしない。これからも自分だけの個性を込めた文体で、素晴らしい作品を書いていってほしいと願っている。
余談だが、件の文体についてだが……この書き方をしたのは、件の作家が初めてではない。
結構昔のことではあるが、これとほぼ同じ書き方をした作品を世に数多く生み出してきたライトノベル作家がいたことを僕は知っている。
当時、彼が書いていた作品は色々あったようだが、その殆どが大ヒットしてアニメにまでなったそうだ……僕はそれを観たことはないが。
その文章を見ただけで、それを書いたのが彼だということが僕には一目で分かった。それほどまでに彼の書く文章は個性的で、彼らしさが十二分に込められたものだった。あの文体はもはや彼の『顔』であると言っても過言ではない。
ひょっとして、件の作家は彼の書き方から執筆技術を学んだのだろうか?
あの書き方を真似たいとは思わないが、あれほどのレベルの文章を書ける物書きになりたいと、僕は思っている。
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