彼女の傍に希う


僕の存在意義はそこに魔女様がいることだったから、彼女がいなくなったのなら僕は別に死んでもよかった。



一番は、彼女と供に泉下にへ行くことなのだけど。

彼女が僕を連れて行くつもりはないこと、そんなのはなから知っていたから。


「ねえ、陛下」


僕は常に魔女様や皇帝陛下の横にいた。

僕は直属の兵士でもないし、傭兵でもない。

明確な居場所かなかったってのもある。


「なんだ」


陛下は魔女様とは違うのに、なぜだか容姿は衰えない。

ずっと、初めて出会った時のまま。



「あなたは今でも、自分に価値がないと思っていますか」



「………だったらどうする」



「別に、どうも」


僕は肩を竦めた。どうだっていい。貴方の価値に興味はない。





「価値が無いくせに、魔女様を殺してまで生きようとするのは、よくわかんないけど」


この戦で、魔女様は死ぬ。

勝っても負けても彼女は死ぬ。



だって、生きる理由より先に死ぬ理由が出来てしまったから。



「別にこの戦は死ぬ理由にならないからな」



「僕はあんたが死んでくれた方が嬉しいんですけどね」


どうしようもなく胸がムカムカして吐き捨てた。


「じゃあお前が、私の死ぬ理由になるか」


「嫌ですよ」


思えば、それが僕に残された数少ない抵抗だった。



「僕の存在意義はアンタのためじゃない。魔女様がいるから、生きているだけ」



あの人が生きてるなら、生きようと思った。

あの人が死ぬなら、死のうと思った。


僕はひたすらに、あの人の傍らを希う。


僕は黙って空を仰いだ。


大乱、そして王の死。


丁度一ヶ月前に完成した星図は、何者かの力によって緩やかに動いていく。


次に星が示すのは、魔女の死。




「馬鹿だな、僕も」


何で彼女を愛してしまったんだろう。


あんな愚かで、最低の人を。



「本当に貴女は狡い」




壊れかけの人形に生命を吹き込んでしまうなんて。







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