僕と彼女の命の天秤



瞬き一つの間に、僕の幸せはあっさり崩れ去った。


『戦だな』


久々に来たと思ったら、皇帝は僕にとって最悪の報せを持ってきた。

それはまるで、彼女にさあ死ねとでも言わんばかりに。

『あなたが死んだら終わりでしょう』

僕の不遜な物言いに、皇帝陛下はただちょっと笑って頷いた。

『まあな。お前も来るか?』

『知らない誰かに殺されに?・・・まあ、悪くないかな』



僕は、いつまでたってもしょうもない餓鬼だった。

魔女様には生きる理由が無いと詰るくせに、僕だって生きる理由も無かったから。

死ぬ理由を探しているのは、僕も魔女様も同じ。


僕がそう言うと、皇帝陛下は変な顔をした。

魔女様も。



『・・・あの戦で生き残った奴が、そう簡単に殺されるわけないだろう。もしかしてお前、どうして生き残ったのか分かってなかったのか』



僕はキョトンてした。

だって僕は、あの頃から生きる理由も死ぬ理由も無かったので。

『どうしてって・・・幸運だったからでしょう?』



そうしてその幸運は、今日終わりを告げた。



『・・・あの戦場で最後に落ちた首は、アイツが切り落とした奴なんだがな』



皇帝陛下が呟いた言葉は僕には聞こえなかったし、聞き返すこともしなかった。




そうして僕たちはいつかのあの日みたいに、死神がケタケタ笑いをして待っている戦場へ出向いたのだった。






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