誰もが忘れた魔女の話

呆然と立っていた僕の横を、何かがてんっと転がっていった。

何かは知らなかったし、知らなくていいと彼女は言った。


「・・・なんだ、餓鬼か」

ふと、つまらなそうな声がした。

気付かなかったけれど、いつの間にか真っ黒で怖い人が彼女の隣に立っていた。

「なんだって、皇夜こうや。君ね・・・」

呆れたように彼女は、言って。それから、僕に目を落とした。

「どうすんの?殺す?」

赤い唇が、いびつに歪んだ。

その手に握られているのは、真っ赤に濡れた短剣。

目を反らしたかったけれど、そしたら先ほど転がっていた何かが目に入っていしまいそうだった。

「最低な世の中だね。生きる価値のない奴らが、価値のある子供を殺す」

「まあ、よっぽど死ぬべきなのは、俺たちなのは確かだな」

二人とも恐ろしく端整で、真っ赤の汚れていた。

「ねえ、君はさ・・・」



僕は、ずっと後になっても思い返す。

これが、全ての始まりだったこと。

悲しみに満ちた、物語。

忘れ去られた、僕の大事な人。





「こんな世界でも、生きたいって。そう、思える?」









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